41
インフルエンサー=メディアプロデューサー
41
インフルエンサー=メディアプロデューサー
昨今、多くの企業が「インフルエンサー・マーケティング」に注目している。インフルエンサー・マーケティングとは、商品やブランドがターゲットとするコミュニティやセグメント内において、周囲に影響を与える人物(=インフルエンサー)にアプローチし、商品の魅力やブランドメッセージを広げていく手法のこと。今回は、企業とインフルエンサーをつなぐSNS特化型プラットフォーム「SPIRIT」を運営する、LIDDELL株式会社代表取締役CEO・福田晃一さんにお話をうかがう。
文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮
「SPIRITを活用して、月に30~40万円を稼ぐ人はたくさんいます。そんな風に個人が自身のメディア(SNS)を広告としてマネタイズできることを、もっと多くの人に知ってほしいです」
語るのは、LIDDELL株式会社代表取締役CEO・福田晃一さん。同社が展開する「SPIRIT」は「商品やサービスを世の中に広めたい」と考える企業と「この企業の商品やサービスをPRしたい」と考えるインフルエンサーをマッチングさせるプラットフォームだ。
「SNSを活用して大きな収入を得る。これは決して、欧米だけの話ではありません。人気のブログを書く人がブロガーとして生計を立てていることはご存じの通りですが、最近はYouTubeやInstagramなどのソーシャルメディアを活用してフォロワーを集め、広告収入や企業からのギャランティを得るインフルエンサーが、日本でも確実に増えています。
例えばYouTube上のインフルエンサーをYouTuber (ユーチューバー)、InstagramではInstagramer (インスタグラマー) と呼びます。彼らはSNSに万単位のフォロワーをもっており、その拡散能力に今、多くの企業が着目しています。広義の意味でインフルエンサーといえば、ジャスティン・ビーバーやレディ・ガガもそう。ただし彼らは存在が巨大すぎて、SPIRITが定義するインフルエンサーとは少々異なります。私達がインフルエンサーと呼ぶのは、タレントなどではなく、強い影響力をもった一般の人達です」
日本で「インフルエンサーマーケティング」という言葉が一般的なものになってきたのは、おそらくここ数年だろう。インフルエンサーとは、かつての「読者モデル(読モ)」「人気ブロガー」といった存在に近いといえる。そしてSPIRITに登録しているインフルエンサーは10~20代の女性がメインで、約1万8千人に上る。
「渋谷、原宿などにいる10代~20代の女の子達が中心です。僕はもともと芸能プロダクションで、長年、渋谷のちょっと目立っている女の子人達などを束ねてガールズマーケティングをやってきました。そんな中で昨年、SNSにおけるインフルエンサーマッチングのシステム化を目指して立ち上げたのが、SPIRITです。
SPIRITは良質なインフルエンサーをキャスティングでき、初回登録費や月額固定費、掲載料はいただきません。そして公募形式でキャスティングするため、低コストでインフルエンサーを集めることが可能です。その中で最も大きな特徴が、インフルエンサーに支払われるギャランティの高さと透明性でしょう。
そもそも、キャスティングに相場をつけることが難しい。そのため不透明性が高く、インフルエンサー本人にギャラがどれだけ支払われているのか、企業もよくわからない面がありました。しかしSPIRITは違います。企業から提示のあったギャラは本人に全額支払われ、僕らがいただくのは基本的にプラットフォームの使用料とディレクション費用だけ。インフルエンサーから登録料などを取ることもありません。
そしてSPIRITは、一部のインフルエンサーだけのものではありません。基本的に誰でも登録できるので、決してハードルの高いものではない。実際のところ、企業は1000~2000フォロワーの人にも、オファーをよく出します。1回投稿をして2000~3000円もらえるとしたら、例えば地方に住んでいる若い女性なら、3~4時間働かなきゃ稼げない額を、それだけで稼げる。彼女たちはそれくらい価値のあるメディア(SNS)を運営しているのです。そう考えると、フォロワーが1万人いなくても、決して悪いバイトではない。私達は、日本にも世界にもまだまだいる『潜在インフルエンサー』をこれから掘り起こしていきたいと思います」
福田さんが今、注目しているキーワードが「マルチチャンネルネットワーク(MCN)」の概念だ。MCNとは、YouTuberなど動画クリエイターのマネージメントプラットフォーム。簡単に言えば芸能事務所のようなシステムで、アメリカではここ数年で本格的なMCN事業者がいくつも誕生。YouTuberのマネージメントの他、動画コンテンツのプログラム制作やプロモーションも請け負っている。その流れが今、日本に浸透しつつある。
「今は、ひとりひとりがツイッターやインスタグラム、スナップチャットなど、2~3個のメディアを運営している状態。例えばそれが動画に関するものなら個人個人がSNS上に放送局を持っているようなもの。つまりインフルエンサー=メディアプロデューサー。そしてSPIRITは、インフルエンサーという人をネットワークするというより、個人個人が営むマイクロメディア、パーソナルメディアをネットワークするサービス、概念的にはマルチメディアネットワークだと思っています。
いわゆる『4マス』の時代から大きく変わり、個人が自らオウンドメディアを作るようになりました。僕は今のマーケットにおいては個人の方がプロモーションが上手いと思う。なぜなら、消費者のことを最もわかっているのは、他ならぬ消費者自身。カスタマー目線でメディアを作れるという意味で、インフルエンサーは本当の意味で共感を生むモノづくりができる。昔からある考えだけど、ソーシャルメディアの発展でさらにそれが昇華されている。そしてそれは、企業目線で作った洗練されたメディアよりも、共感されることでしょう。
今後ますます『個の時代』が進んでいきます。音楽も写真も映像も、今までは何らかの企業や集団に属していなければ作れなかったものが、今や個でしっかりと表現できる。そして組織の中にいなくても、優秀な人が正しい評価を受けるようになってきました。つまり今、個の可能性がどんどん大きくなっている。そう考えると、SPIRITが時代を象徴するプラットフォームに成長する可能性は十分あると思います」
インフルエンサー達が実際にどれくらいの情報拡散能力を持っているのか。その数字を出してみれば、彼女達の持つとんでもないポテンシャルがよくわかる。
「インスタグラムやツイッターのフォロワー10万人なんて、決して珍しくない。もちろん、一般の女性で、です。そして彼女達が1日に3回つぶやいたら、リーチするのは30万人。つまり、月間で約1000万PV。これは本当にすごいことで、そんな一般人がたくさんいるのが現状です。
今、SPIRITに登録しているインフルエンサーは1万8千人です。彼女達の平均フォロワー数を1万人としたら、もし全員で一つの情報を拡散させたとすると、延べ1億8千万人にリーチできる。1万8千人のインフルエンサー=メディアプロデューサーを抱えるということは、それだけすごい可能性を秘めている、ということを、ご理解いただきたいです」
次回Part.2では、LIDDELLがターゲットとする若年層の女性達のSNS事情と、福田さんのこれまでのキャリアについて、話を掘り下げていく。
1979年高知県出身。2000年に前身となるTWIN PLANETを創業し、学生マーケティングとモデルエージェンシーのハイブリッド事業を開始。
’06年にTWIN PLANETを法人化。ガールズマーケティング事業、芸能プロダクション事業、クリエイティブ事業、コンテンツ事業を展開。
’14年にLIDDELL株式会社を設立。過去100名を超えるタレントマネージメント経験を生かし、マーケティング事業を展開。
’16年にインフルエンサーと企業をつなぐプラットフォーム「SPIRIT」をローンチ。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです