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IoTは、ソフトウェアの世界だけでは完結しない

武下真典 たけした まさのり さん (株)エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役

part.4

 

■ビジネスのスピード感、意思決定のシステムを変えねばならない。

武下さんは大学卒業後、ITコンサルティング会社に入社。プログラマーやシステム設計を5年ほど経験し、2008年にエスキュービズムに入社。ECサイトのプロジェクトマネジャーからスタートし、営業、商品開発とキャリアを積んだ。そして2014年4月、分社化に伴ってエスキュービズム・テクノロジーの社長に就任する。

 

「仕事のメインはマーケティングと新商品の開発。ミッションは、IoTの新ビジネス構築です。もともとプログラマー上がりですから、エスキュービズムに入社してからも、システムのことはある程度わかりました。でも、ビジネスの創出についての考え方は、ここで学びました。今あらためて実感するのは、常に新しいことをやっていかないと滅んでしまう、ということ。その危機感は常にあります。

ちなみに分社化されていたエスキュービズム・テクノロジーとエスキュービズム通商、エスキュービズムホールディングスは、この10月に合併し、エスキュービズムという会社に戻りました。新体制において、IoTは最も重要なビジネスになるでしょう」

 

いかにして顧客としっかり組み、優れたビジネスモデルを作りあげるか。今後のカギはそこにあると考えている。

 

「もし10億投資して20億利益が出るなら、どんな経営者でもIoTをやるでしょう。そこに至っていないのは、IoTを使ったビジネスモデル改革の具体的事例とノウハウがまだ足りないから。今はまだ『技術的にこんなことができるようになったよ。すごいね』というレベル。『じゃあ、それでウチの会社にいくらメリットがあるの?』という問いかけに答えられるところまで、ソリューションが固まっていない。それが大きな課題です。IoTに対する理解は、まだまだ進み切っていないだけに、実例を一つでも増やしていくことでしょう」

 

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ただしそこには、大きな障壁がある。それは、日本企業の古くからの体質だ。



「日本の大企業は稟議社会というか、ちゃんと事業計画を書いて、費用対効果を算出してってしますけど、それをやっている間に競合が入って来る可能性がある。ほんの半年ぐらいの間に思いもよらぬライバルが現れて、やられてしまうわけです。

だからこそ『やろう!』となった時は、限定された予算の中でも、まずはプロトタイプを作ってしまうべき。なぜかというと、作ってみないとわからないことがたくさんあるから。例えば免税店のセルフレジを考えた時、僕らはプロトタイプをまず先に段ボールで作り、実際に設置する場所との関係性などを考えながら、デザインを詰めていきました。実際に作らないとわからないことが、たくさんある。つまり、モノはソフトウェアの世界だけでは完結しないのです。だから半年かけて社内で承認を得る前に、1カ月で試作を作る方が実りは多い。

でもそういうスピード感は、日本企業が得意とするところではない。だからビジネスのやり方、会社の意思決定のシステムを変えなければならないことを、切実に感じます。走りながら考える、ぐらいじゃないと、世の中のスピードについていけない。のらりくらりとやっている間に、敵は国内のみならず世界中から、同業も異業種も関係なく、いきなりやって来るわけですから。今はまさに、ビジネス手法の変革期にあると思います。

そしてもう一つ、僕らがIoTを推進する中で意識しているのが、経営者の方と会うこと。IoTビジネスは現状、意思決定のできる経営者の方と直接お話ししてご提案させていただく方が、多くの場合、上手くいきます」

 

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■自社の持つテーマを明確にする。

今後、テクノロジーの発達はさらに進み、モノはさらに賢くなっていく。だからこそ重要なのが「発想」だと、武下さんは語る。

 

「発想というと、0から1を生み出すように思われがちですが、そんなことは今やもう無理です。この時代、発想とは『つなげる』こと。まったく違う何かを何かを結びつける力だと思います。

そのためには、常にいろいろなことを見続けねばならない。さまざまな業界のことを知らねばならないし、知人からもさまざまな情報を収集せねばならない。テレビのバラエティ番組だって見るべきだと思います」

武下さんが考えるIoTビジネスの大きな課題が、企業の理解がなかなか進まないこと。それに対応するためエスキュービズムが作ったのが「Usable IoTカード」だ。
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「IoTも発想、つまり組み合わせが大事。モノにどんなセンサーを付けるか、それに対応するクラウドは何がふさわしいか。そういった組み合わせが上手くできれば、それはIoTの仕組みを考えられることと同じです。

じゃあ人間が組み合わせを考えやすくなるには、どうするか。そこで作ったのがこのUsable IoTカードでした。企業の持つ課題や業界別IoTアイデア、実際のIoTソリューションなどのカードを作り、クライアントに持参。僕らがカジノのディーラーみたいにカードをさばき、カードを並べながら『これとこれを組み合わせたらどうですか』と、一緒に考えていく。

結局、ただ単にうーんと唸って考え込んでも、何も浮かびません。例えば『コスト削減』と『既存客の売り上げ拡大』の二つのカードのどちらが至近の課題ですか? というような問いかけをして、選んでもらいながら、引き出していくわけです。今はまだ『IoTは難しくて考えられない』で止まってしまうレベルから、確実に一歩、進むことができるわけです。デジタルを駆使した最新のIoTビジネス提案を、このようなアナログな形で行う。このギャップが多くの企業さんに喜ばれています(笑)」

 

Usable IoT Card
Usable IoT Card

 

重要なのは、IoTを過剰に難しく考えないことだと、武下さんは語る。

 

「乱暴な言い方をすれば、IoTって結局、みんながわからなくてもいいんですよ。モノがネットにつながる、ということだけ、わかっておけば大丈夫。それよりも大事なのは、さまざまな組み合わせから、自社に適したビジネスモデルを見つけていくことです。

つまりIoTをわかる・わからないという議論は、もう無意味。僕だって世の中のIoTを100%知っているかというと、そうではない。僕には僕なりの理解があるだけです。つまり、自分なりにIoTを理解して、自分の会社のビジネスを考えられれば、それでいい。

企業に勤めるマーケターにとってまず大事なのは、コストダウンや顧客サービスの向上といった自社の持つテーマを明確にすることだと思います。その上でご相談いただくと、IoTの導入はよりスムーズになる。『IoTで何かやりたいです』というぼんやりしたご要望よりも『今2人で行っている店舗オペレーションを1.5人にしたい』というご相談の方が、間違いなく取り組みやすいと思っています」

 

最終回となるPart.4では、引き続き武下さんが考えるIoTビジネスの課題と、今後の展開について話を掘り下げていく。


プロフィール
武下真典

武下真典 たけした まさのり

(株)エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役

1979年大阪府出身。大学卒業後、フューチャーアーキテクトを経て2008年に株式会社エスキュービズムへ。
2014年にEコマースの開発、店舗タブレットソリューションの「EC-Orange」シリーズを軸に事業を展開する株式会社エスキュービズム・テクノロジーを設立し、代表取締役就任。今年10月、組織統合によってエスキュービズムの取締役となる。
著書に『はじめてのIoTプロジェクトの教科書』(クロスメディア・パブリッシング刊 武下真典/幸田フミ 共著)。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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