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人と人の新たなつながり。その連鎖を作っていきたい

柘野 英樹 つげの ひでき さん Zebra Japan(株) マーケティング部長

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Part.4

 

■キャリアを「広げる」段階から「深める」方向へとシフト。

 アディダジャパンに勤めた4年半のキャリアにおいて、柘野さんは一貫して「いかにしてモノを売るのか」ということの仕組み作りを突き詰めた。

 

「前半の2年半で手がけていたのは、担当スポーツカテゴリーのコミュニケーションプランの企画開発と実行でした。そして後半の2年間では、リテールマーケティングのマネージャーとして、直営店のセールスプロモーション活動の企画開発と実行を行いました。

リテールマーケティングには、希望して異動させてもらいました。モノを売る仕組みを深く突き詰めるなら、実際の店頭においてどんな施策が最もワークするのかを知らねばならない、と思ったからです。

この時、店舗においてスタッフはどのような役割を担うのか、売るためにはどんな店舗環境を作り、どのように商品を見せれば効果的なのか、どのような工夫をすればお客様に入店していただけるのか、といったことを学ぶことができました。店舗を知っている人にとってはとても基本的なことかもしれませんが、そんなことすら把握せずにコミュニケーションプランを立てていた面もあった。その経験不足を埋めることができたのは、非常に大きかったです」

 

そこからスターバックス コーヒー ジャパンに転職したのは「リテールの経験をさらに深いものにしたい」という思いからだった。

 

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リテーラーとしてすごい会社はどこか。そう考えたら、やはりスターバックスだろうと。マスコミュニケーション活動をせず、どのようにここまでのブランドに成長したのかに興味がありました。そしてそれを実際に経験することで、自分自身の成長につなげたいと思いました。

入ってみると、やはりアメリカ企業ですから、考え方が非常に合理的かつロジカルでした。中でも、戦略から施策までの一気通貫の度合いが素晴らしかった。実際に店舗で行われていることや他部門の活動、今後の方針など、あらゆる施策がスターバックスの事業戦略にぴったりと合っている。日本の店舗における今のこの計画が、なぜ必要なのか。それをグローバルなブランド戦略から、誰でもすぐに理解できる。全社的戦略から末端のリテール戦略まで、骨組みが本当にしっかりしているんです。すごいと思いました。

ただし裏を返すと、それはローカル施策を検討する余地が少ない、ということでもありました。本社のグローバル戦略があまりにもしっかりと組み上げられているだけに、そこに介入し、根幹部分から変えていくことは難しい印象があったのも確かです」

 

スターバックス コーヒー ジャパンに在職していた間、前半の約3年はリテイルコミュニケーションチームマネージャーとして、年間セールスプロモーションの計画立案と実行などを手がけた。そして後半の約2年では、商品本部でドリップコーヒーの中長期経営戦略立案と短期的戦略の実行、新商品導入グローバルプロジェクトのリードなどを担当。プロダクトマーケティングの知見を吸収した。「そろそろ、自分のキャリアを横に広げるステージから、深める段階にベクトルを変えてもいいのではないか」。4年以上勤めたスターバックスからスウォッチ グループ ジャパンを経て、Zebra Japanへと移った背景には、そんな思いがあった。

 

「弊社の社長とはスターバックス時代に一緒で、スウォッチ時代に食事をしたんです。その時に社長が『フライング タイガー コペンハーゲンを通じて、日本をもっと元気に、ハッピーにしたい。日本人をもっと笑顔にしたい、ということを熱く語りながら、僕を誘ってくれたんです。

当時は外資系企業に勤めて10年になるころ。今まで、海外のブランドを日本国内で強くする活動は行ってきたけれど、残されたサラリーマン人生、今度は日本を元気にすることにもっと軸足を置くのも面白い。そう感じ始めていた時期でもありました。そして社長の『日本を明るくしたい』という思いが本当にストレートで、僕のフィーリングとぴったり合った気がしましたね。だから、具体的な条件などほとんど聞かず『行きます』と言っていました(笑)」

 

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■マーケティングとは、モノが売れるための仕組み作りである。

 

 柘野さんが長年、さまざまな会社でキャリアを重ねて得た持論。それは「マーケティングとは、モノが売れるための仕組み作りである」ということだった。

 

「誤解を恐れず言えば、企業は営利目的で活動しています。つまり事業の目的は売上/利益目標の達成になります。これをどうやって達成するのか。その戦略がブランドらしさであり、そのブランドらしく売上を獲得するための戦略を遂行することがブランディング。そして、その部分を含めた全体設計こそがマーケティングである、と思っています。

例えば、スターバックスというブランドは売上/利益目標を達成するため『お客様一人一人にピッタリのサードプレイスを提供することで顧客満足を高める』ことが戦略です。ゆえに『お客様一人一人にピッタリのサードプレイスを提供する活動』がブランディングであり、それにより顧客満足を高め、目標を達成していく。そんな全体的な売れる仕組み作りがマーケティングである、という考え方です。

 

また、例えば私がアディダスで働いていたころ、ナイキというブランドは『最高のパフォーマンスを引き出すためのギアを提供することで、顧客満足を高める』というのが、売上/利益目標を達成するための戦略と思われます。『JUST DO IT.』というフレーズを掲げ『ついてこいよ!』と引っ張るような顧客との関係性のもと、憧れの存在的な立ち位置を取っていました。アディダスはその逆で、もう少しフレンドリーで親しみのある立ち位置にいました。『アスリート一人一人にピッタリのサポートを提供することで、顧客満足を高める』ことが基本戦略で、この違いを打ち出していくのがブランディング。そして、双方の戦略でさまざまなアクションを行い、事業目的を達成する仕組みがマーケティングだと考えています

そして今、着実に店舗数の拡大を続けるフライング タイガー コペンハーゲン。今年は昨年にプラスして11店舗をオープン(9月新宿、10月渋谷、11月二子玉川で合計24店舗)。今後も日本国内での出店を加速させていくのだろうか。

 

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9月17日にオープンした 「FLYING TIGER COPENHAGEN 新宿ストア」

 

「今年6月に福岡、7月に名古屋にストアをオープンし、やっと関東関西以外の政令指定都市に出店できました。これらのニューマーケットが今後どうなるか、今はポテンシャルを探っている状態です。福岡や名古屋の中心地を起点にネットワーク化を加速するという考え方もありますし、まだ出ていない都市に出ていこうという考え方もあります。

 

また、今は急激に成長を加速させつつ、このサポートセンター(店舗をメインの場所と考え、本社はそれをサポートする立場という考えから、本社のことをこう呼ぶ)にも新しい人がどんどん入ってきている状況。その中で、しっかりとした基盤を構築することが大事です。どこにプライオリティを置くか。そして、そのバランスをどう組むか。今はそれを見定めている状況です。

同時に、新しいフェーズにも入りつつあります。今、大きな店舗でいえば1日約20003000人が来店されます。この方達にどうやってコンスタントに来店し続けていただく状況を作るか。すなわち、来店する楽しみをどう提示していくかという部分に、少しずつ着手していこうと考えています。例えば今回発行する書籍(※『フライングタイガーコペンハーゲン 北欧発ときめきのライフスタイル』( 2015/9/10発売))は、そのための気づきを与えるものとして位置づけています」

 

今は、決して簡単にモノが売れる時代ではない。その中で大事なのは「どれだけ共感できる存在であり続けられるか」だと考えている。

 

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「例えば大手ファーストフードチェーンのように、値段を安くして画一的なオペレーションと巨大なネットワークを作り、駅前の最もいい立地に出店して利便性を追求する、というような軸で勝ち残れる企業は、ごくわずかでしょう。一方、商品を軸に品質を突き詰めていくやり方もあります。デンマークでいえばロイヤルコペンハーゲンであり、日本では例えば昔のソニーのように、商品のスペックや品質、クオリティを伸ばしていく方法です。

僕は今まで、そのどちらの戦略軸を取っている企業にも在籍したことはありません。僕がいた会社の戦略は、基本的にすべてお客様が軸。お客様一人一人がハッピーと思うもの、満足度を感じるもの、ニーズに合ったもの、いい意味でお客様の期待を超えるものをいかに提供するか。その満足度によって共感を集め、ビジネスを創造する。その方向性は、この会社も同様です

 

 その戦略における一つの取り組みが「つながりを連鎖させていく」という考え方だ。例えば昨年11月、京都にオープンさせたゲームバー「Spilbar KYOTO」は、コーヒーを飲んだり、ホットドッグを食べたりしながらデンマークのボードゲームや卓球を楽しむ新業態のバー。『どうして雑貨店がゲームバーを?』と疑問を感じる方も多いに違いない。ここは創造力をかき立てる場であり、多くの人がゲームやスタッフを通じてつながり、コミュニティを形成するための実験の場なのだ。

 

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「FLYING TIGER COPENHAGEN 京都河原町ストア」に併設する「Spilbar KYOTO」

 

「ゲームや卓球は、初めて会った同士でも一緒にプレーしやすいですよね。ここではゲームもコーヒーもホットドッグも、そしてスタッフも、人と人のつながりを生み出すためのツール。それらをきっかけにお客様の創造力が膨らみ、つながりが生まれる。それはお客様一人一人の人生を豊かにする新しい発見を手に入れることができる空間です。そんな空間がフライング タイガー コペンハーゲンの実店舗の他にあってもいい、というチャレンジであり、他の雑貨店では難しいと思います。

 

確かにただ効率を追求するならば、そんな場は必要ないかもしれない。でも私達がやるからこそ、こういう場が成立するはず。私達の戦略軸においては、意味のある”場”だと考えています。

 

前回お話した"classroom" Flying Tiger Copenhagen by Milk Japonも、同様の考え方の元にあります。私達は、お客様一人一人の人生を豊かにする新しい発見を提供するために、人と人のつながりを演出するストアとして成り立っていきたい。さまざまなきっかけで創造力がかき立てられ、アイデアが膨らんでいく。そこに多くの人が集い『僕はこう思うんだけど、どうかな?』『それいいね!』というように、互いがつながっていく。そこで新しい発見が生まれ、それがまた新たなつながりと発見を生む。その連鎖こそ、私達が作っていきたいものです

 

 クリエイティブな気づきの起点を増やし、そこからたくさんの人と人のつながりと共感を生み出す。それが、柘野さんが考える中長期的なテーマだ。雑貨店の枠を大きく飛び超えた、フライング タイガー コペンハーゲンのユニークな戦略の数々。柘野さんは、そのカギを握る存在である。

 

(終わり)

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プロフィール
柘野 英樹

柘野 英樹 つげの ひでき

Zebra Japan(株) マーケティング部長

1973年5月3日兵庫県宝塚市出身。大学卒業後、1996年に東北新社に入社し、CM制作の進行管理を担当した後、ADKインターナショナルに移り営業部で活躍。ADKインターナショナル社長賞などを受賞。’04年にアディダスジャパンへ。’07年より直営店の販売促進などを手がけ、その後はスターバックス コーヒー ジャパンにてドリップコーヒーのマーケティング戦略立案と実行に従事。スウォッチ グループ ジャパンのマーケティング部マネージャーを経て’14年、Zebra Japan株式会社に入社。フライング タイガー コペンハーゲンの日本国内におけるすべてのマーケティングプロジェクトの責任者となる。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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