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アジアでの女性向けコンテンツを仕掛けていく
台湾は人口約2500万人と、決して大きなマーケットとはいえない。それにもかかわらず、なぜ、吉本興業が台湾を拠点としてテレビ番組などのコンテンツ制作を行うのだろうか。
「もちろん、狙いは台湾だけではありません。私達のマーケットは中国を含めたアジアですが、中国大陸にダイレクトに入っていくことにはさまざまな障壁があります。中国は国がメディアを管理していますし、政治も考慮せねばならない。ですから、台湾から入れていこうと考えているわけです。
台湾のエンターテインメントはYoutube内で一つのコンテンツになっており、中国に大きな影響力があります。また、中国の人気タレントは台湾出身者が多く、中国版ツイッターといわれるウェイボーのフォロワー数の上位者には、台湾出身者が多数います。」
吉本興業は現在、台湾、中国、韓国、タイ、シンガポールそしてアメリカに支社を構える。その中でも台湾支社は番組を販売するのみならず、タレントの育成を始め番組制作も行っている。いわば日本の吉本興業の"ミニ版"がある唯一の土地なのだ。
「今は自社制作の番組以外も含めて、田村淳さん(ロンドンブーツ1号2号)など日本のタレントを現地のトーク番組やバラエティ番組など、積極的にさまざまなメディアに出演してもらっています。その繰り返しにより現地で人気タレント化することで、現地メディアとのリレーションを構築し、CMなどのスポンサードを取っていくことが目的です。
実は『ロンドンハーツ』や『めちゃ×2イケてるッ!』は、台湾でも10年近く前から人気の番組。つまり田村淳さんや岡村隆史さんは、日本の食のこと、ファッションのことなど、さまざまなことをMCという立場からPRできるんです。それはすでに認知度が高い人気タレントだから形にできるメリット。少なくともウチは、アジアで人気者を作ろうと思った時、0から1を作り出す必要はありません。
例えば田村淳さんの場合、Twitterのフォロワー数はすでに約120万人。ご存じの通り淳さんはセルフプロデュース力が高く、ソーシャルネットワーキングサイト上での影響力が大きい。要は、彼自身が大きなメディアなんです。彼が現地で番組に出ることで、アジアについては、0ではなく5ぐらいのポジションから始めることができます。
そういった形で、MCとして番組を回せる日本人タレントや、現地で育てた台湾人タレントを活用していくことで、本当の意味で現地に根づいたマーケティングとコンテンツ制作ができます。映像制作力、タレント力、PR力などのプラットフォームに、強いコンテンツを投下することでカタチとなる仕組みを構築し、それに上手くリンクさせる形で、私は女性向けのコンテンツを仕掛けていこうと考えているわけです。それは必ず、台湾での新たなビジネス拡大の大きな足がかりになるはずです」
吉本興業のスタンスは日本国内も同様だ。現在制作している年間5000本近くのテレビ番組の他、Youtubeのマルチチャンネルのコンテンツ『吉本興業チャンネル』、ニコニコ動画と組んだ『よしよし動画』など、さまざまなコンテンツを新しく開発。話題となったお菓子『面白い恋人』などのマーチャンダイジングの他、地域活性化の試みとして『あなたの街に“住みます”プロジェクト』と称し、所属の『住みます芸人』を47都道府県に派遣。地域密着の芸能活動を行わせるなど、所属の芸人やタレントをさまざまな形で活用。それにより、実に多彩なPRを行うことができるのが強みだ。
「大きいのが『ニュースタークリエーション(NSC)』という学校でしょうね。毎年700人が入学し、500人が卒業する養成校を持っていて、育ったタレントを自社の番組や劇場、イベントやネットコンテンツで売り出すことができる。要は、新しいスターを生み、育てていくシステムが高いレベルで確立されているわけです。
また、メディアに関してはすべてフラットに付き合っているので、どこと組んでコンテンツを発信することもでき、それを内部で30人近いPR部隊が支えている。つまり吉本興業は、エンタメのプラットフォームが構築された企業なんです。
正直私自身も、昔は吉本興業をお笑い芸人さんを抱える会社、としか見ていませんでした。でも、それだけでなく、生み出して、育てて、露出させて、さらにPRをかける、その繰り返しができる企業であり、そこに大きな可能性を感じられるわけです。」