公衆衛生・婦人科教育…教育現場での企業のSDGsコミュニケーション事例
近年活気づいている企業のSDGs(持続可能な開発目標)アクションの中で、未来を担う子供たちへの教育現場における持続可能な環境・ライフスタイルに関するリテラシー向上に寄与する教育プログラムの提供も、SDGsアクションのひとつのメインストリームとなりつつある印象を受ける。
企業がSDGsアクションを通して目指す未来は、企業の事業活動自体のサステナビリティも意識したうえで設定されるべきもの。将来のコンシューマーでもある子どもたちに、共通の“理想の未来”、“求めるべき健康的な、ないしは文化的なライフスタイル”を健全に理解し、そのための正しいアクションを選び取るための教育プログラムは、業界のリーディングカンパニーであれば怠るべきでない、中期的なマーケティング活動という側面もあるかもしれない。
ここでは、リーディングカンパニーの、近年存在感を呈しているSDGsに根差した教育コンテンツの事例を紹介する。
ヘルスケア領域で需要も高く注目度が高い、女性のヘルスケア教育コンテンツ
2021年7月16日「かがやきスクール」埼玉県立南稜高等学校 出張授業の風景
“Health for All, Hunger for None(すべての人に健康を、飢餓をゼロに)”をビジョンに掲げるバイエル薬品株式会社は、自治体や企業、NPO などと連携し、女性の健康の支援の充実に向けた提言や情報発信をするとともに、全国の高等学校を対象とした女性の健康教育推進プロジェクト「かがやきスクール」を2014年から実施。これは、産婦人科医師を学校に派遣して、無料で授業を実施する取り組みで、2022年4月現在、200校以上、58,000人の生徒が参加するという大きな成果を挙げている。
しかし、訪問できる学校は限られているため、授業スライド や授業動画の提供や教員向けセミナーの実施などを通じて、出張授業以外でも女性の健康教育の取り組みが広がる支援もしている。
かがやきスクールでは、活動の一環として「教員対象オンラインセミナー」を実施し、教育現場での健康教育実施をサポート。さらに「かがやきスクール」ウェブサイトでは、教職員向けの無償の教育資材を、アンケートへの回答と引き換えに提供している。「かがやきスクール」の基本スライド集、女性の健康をテーマとした小冊子のほか、婦人科医による「かがやきスクール」の講演動画なども視聴することができる。
バイエル ホールディング株式会社 広報本部長 木戸口 結子氏は、「かがやきスクール」発足にきっかけについて以下のように話す。
「月経を含め、自分自身の体や健康問題に関する知識が十分でないため、現在の日常生活や生産性に 影響を受けるだけでなく、将来のライフプランやキャリアプランにも影響を及ぼす可能性があります。逆に知識があれば、よりアクティブで生産的な日々を送られるだけでなく、将来の目標や夢の実現に、またワークライフバランスの実現に向けて、より主体的に女性が自分の人生をマネジメントできます。
そのためには成人女性への啓発のみならず、思春期からの教育が欠かせないと考えました。私自身も学生時代、十分な知識を持っていなかったのですが、2014 年に本プロジェクトの立ち上げを検討した際、500人の女子高校生にアンケート調査を行ったところ、予想以上に月経や健康問題に関する知識が不足していることが明らかになり、教育が必要であることを実感しました。
女性の一生においてキャリア形成期と出産・育児などのライフイベントが重なる傾向にあり、女性自身が望む人生設計やキャリアプランを実現するためには、女性特有の病気やライフステージの変化について、男女共に正しく理解することが大切です。かがやきスクールの活動を通じて、避妊や性感染症など、狭義の性教育にとどまらず、将来の健康リスク、また出産や育児などのライフイベントを含め、ライフプランを見据えた、包括的な女性の健康教育を提供したいと考えています。
女性自身がこれらの知見を得ることで、女性特有の健康問題を早期に発見することができ、婦人科医への相談など適切な対処に繋がります。次代を担う高校生の皆さんが女性の健康に関する正しい知識を身につける機会となることを願っています」
「かがやきスクール」の取り組みに協力・賛同する企業・団体のパートナーも募集している。詳細は下記。
https://www.pharma.bayer.jp/ja/kagayaki-school/introduction
「かがやきスクール」ウェブサイト
https://www.pharma.bayer.jp/ja/kagayaki-school
バイエルではその他にも、SDGsの中でも教育、ヘルスケアに関連する取り組みとして、子どもたちが自宅で化学を学ぶことができる「バイエル おうちで科学教室」(https://www.pharma.bayer.jp/ja/science-at-home)や脳卒中・心不全・肺高血圧・腎臓病などに関する一般・患者への啓発活動(https://www.pharma.bayer.jp/ja/collaboration)を展開している。
コロナ禍を経ていま一度正しく、進歩的に教育されるべき公衆衛生
「いのちをつなぐ学校 by SARAYA」フクオカハカセのセンスオブワンダー動画
サラヤ株式会社は、NPOや学校・教育機関と連携し、生命科学や衛生・環境・健康をテーマに日本全国の小学校・中学校・高校に教材や学びの機会を提供する教育支援プロジェクト「いのちをつなぐ学校 by SARAYA」を2022年4月にリリースした。
プロジェクトの“校長先生”には生物学者の福岡伸一氏が就任し、一般社団法人シンク・ジ・アースの「SDGs for School」プロジェクトとも連携。3DCGに変身した“フクオカハカセ”が、「生命とは何か」を微生物学、疫学などの歴史からひもとく動画や、個性豊かな動物キャラクターが繰り広げる探究活動のショートアニメ「探究!いのちのフシギ部」では、衛生や環境、健康をテーマに、誰もが感じる素朴な疑問から、最先端の生命科学の知見まで、キャラたちが校長のフクオカハカセとともに学んでいく動画も。
公益財団法人日本ユニセフ協会などの国際機関、企業、研究者、NPO/NGOスタッフなど、様々な職種のエキスパートなどに取材する動画教材、感染症から命を守るための手洗いや消毒の方法など、衛生、環境、健康に関するコンテンツもまとめてある。動画は順次追加される予定。主に中学生、高校生の学校教材として活用されることを目指す。
今後は、サラヤ社員などによる研究者、NPO/NGO、企業など、その分野の専門家によるオンライン授業や出張授業や学校と連携したモデル授業の開発、実施も予定しているという。
「いのちをつなぐ学校 by SARAYA」公式WEBサイト
https://connecting-lives-school.jp/
例年死亡事故や搬送者が後を絶たない熱中症予防の啓発
熱中症を学ぶ教材 「汗をとりもどせ!みんなで防ごう、熱中症」
毎年春先から秋にいたるまで、正しい熱中症知識がないゆえに熱中症で命を落とす生徒が一定数存在している。体育や部活など、脱水リスクの多い学校現場では、まだまだ熱中症の正しい知識が浸透しきっておらず、また、脱水の回避には水分・塩分・糖分・カリウムが必須とされるにもかかわらず、水筒の中身は水に限る、などといった感心できないルールが存在する学校も多数だ。
大塚製薬では、公益財団法人日本中学校体育連盟と連携し、中学生向けの熱中症対策の教材「汗をとりもどせ!みんなで防ごう、熱中症」を提供している。
ウェブサイトには中学生にもわかりやすく熱中症予防の知識を解説した45分授業の指導要領や、そのまま活用できるアニメーション動画、スライドがあり、ウェブサイトで申し込むと教育機関で活用することができる。
医学的にも発生のメカニズムを正しく把握しているか否かが生死を分ける、誰しもがかかるリスクのある熱中症予防コンテンツを信頼に足る製薬企業が提供することのバリューは高い。
大塚製薬 熱中症を学ぶ教材 「汗をとりもどせ!みんなで防ごう、熱中症」 無償提供サイト
https://www.otsuka.co.jp/education/hs/#app
企業それぞれの得意領域を深堀りしたハイクオリティな企業企画のコンテンツは、多様化した教育カリキュラムのニーズがありながらも逐一教材を制作する時間的余裕のない教育現場において歓迎される場合が多い。
環境・いのち・そしてビジネス活動のサステナビリティを叶える三方良しのSDGsアクション施策として、今後ますますバラエティが拡大するのではないかと予想する。