フードブランドの魅力をひきだす新手法、“コーポレートシェフ”とは。 ミシュランシェフ 鳥羽周作×博報堂ケトルが次にブームアップするのは…?

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料理のプロ監修によるアレンジレシピの開発がトレンドになって久しいが、このほどカリスマを「コーポレートシェフ」として立てることで、その食品の魅力を多面的に表現するという手法も登場した。ミシュランシェフの鳥羽周作が博報堂ケトルとコラボレーションして話題を呼ぶチームが次に手掛けるのは、まだその味にあまり馴染みのないという人も多い、まさに“おいしく食べる”ことが課題でもある、話題の食材、スーパーフードの『ユーグレナ』だ。

 

このプロジェクトを率いるシズるの鳥羽周作シェフ、シズるのクリエイティブパートナーである博報堂ケトルの皆川壮一郎氏、株式会社ユーグレナの本木学氏に、「コーポレートシェフ」の可能性について聞いた。

 

<プロフィール>

「sio」オーナーシェフ 鳥羽周作氏

1978年生まれ、埼玉県出身。Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、32歳で料理人の世界へ。2018年、代々木上原にレストラン「sio」をオープンし、ミシュラン・ガイド東京で2年連続1つ星を獲得。業態の異なる5つの飲食店(「o/sio」「純洋食とスイーツ パーラー大箸」「ザ・ニューワールド」「㐂つね」)を運営。書籍、YouTube、各種SNSなどでレシピを公開するなど、レストランの枠を超えた様々な手段で「おいしい」を届けている。モットーは『幸せの分母を増やす』。

 

株式会社博報堂ケトルクリエイティブディレクター 皆川壮一郎氏

1978年生まれ。営業職、マーケ職などを経て、現職。主な受賞歴はJAAAクリエイターオブザイヤー メダリストなど。鳥羽氏とはファッション(お互い好きなブランドは「nonnative」というドメスティックブランド)を通じて、趣味が共通することから意気投合したことをきっかけに友人同士になったそう。

 

株式会社ユーグレナ サステナブルマーケティング部プロモーションチームリーダー 本木学氏

1979年生まれ。広告代理店でのメディアプランナー、コミュニケーションプランナー職を経て、事業会社のマーケティング職に転身。代表的な仕事は楽天在籍時代に手掛けた楽天カードマンの開発等。2019年9月に株式会社ユーグレナに入社。モットーは『ビジネスが拡大するほど世界が良くなる仕事を』。

 

■ミシュランシェフの鳥羽周作氏が設立し、博報堂ケトルが参加した「シズる」とは?

 

2021年4月、ミシュランシェフの鳥羽周作氏が設立し、博報堂ケトルとタッグを組んだ新会社「シズる株式会社」。

もともと鳥羽シェフは、代々木上原のモダンフレンチレストラン「sio(シオ)」のオーナーシェフとして活躍しながらも、他社商品のプロデュースや店舗開発など様々な活動を展開していた。そんな中、鳥羽シェフ自身も「食におけるクリエイティブの重要性」を常々感じていたという。そこでクリエイティブパートナーとしての博報堂ケトルとタッグを組んだ。

 

シズる株式会社のステートメントは「料理は、クリエイティブで、もっとおいしくなる。」。鳥羽シェフによる「おいしいをつくる力」と博報堂ケトルによる「クリエイティブをつくる力」の、お互いの強みをかけあわせ、レシピ開発、商品開発、店舗開発、販売戦略立案からパッケージデザインやPRまで、臨機応変にソリューションの形を変え、ワンストップでおいしいを届ける狙いだ。クリエイティブ開発の他にも、D2Cの販売、カフェや店舗などへの卸売、飲食店の運営なども見据えている。

 

■話題の食材「ユーグレナ」の“コーポレートシェフ”に就任

 

最近、大きな話題になっているのが、「シズる」と株式会社ユーグレナとの取り組みだ。
ユーグレナ社は、藻の一種であるユーグレナ( 和名:ミドリムシ)を活用し、食品や化粧品の販売、バイオ燃料の研究等を行っている。
そのユーグレナ社が生産する石垣島ユーグレナを使用した食品プロダクトプロデュースの一環として、このほど鳥羽シェフが「コーポレートシェフ」というポジションに就任した。

 

ユーグレナは「新時代のスーパーフード」との呼び声も高く、59種類もの栄養素を含み、疲労回復や睡眠の質向上、免疫力維持などに期待できるといった研究結果も。コロナ禍で健康ニーズがますます高まる昨今の状況を受け、そのユーグレナの健康効果への注目度が高まっているが、もともと藻の仲間でもあることからもそのままの乾燥した状態では「おいしい!」と味が絶賛されることは少ない。

 

このユーグレナをパウダー状に加工した「からだにユーグレナ」は、抹茶に近いようなすっきりとした青汁を思わせる味わいに調整された製品で、ミルクや豆乳などで割って飲んだり、パンケーキに混ぜたり食品にかけて食べたりと、様々な手法で摂ることもできる。しかしスーパーフードであることもあいまって、まだまだ一見“サプリメント”としてとらえられがちなユーグレナを、サプリではなくあくまで一般的な食材と捉え、風味や香りの個性を「おいしい」につなげていくために、鳥羽シェフとメニュー開発を共同で行っていく。

 

ちなみにユーグレナは、就任当時18歳の「CFO(チーフ・フューチャー・オフィサー)」という、企業と地球の未来を見据えた事業企画を牽引する革新的なポジションを設定したことでも大きな話題を呼んだが、製品の味プロデュースのための「コーポレートシェフ」というポジションを導入する革新性もそんな同社だからこそだといえるだろう。

 

●コーポレートシェフとしての鳥羽シェフの役割

1.ユーグレナ新商品の味のアドバイザリ

2.ユーグレナ既存商品のアレンジアイデア

3.ユーグレナのおいしさを引き出すスペシャル商品の開発

 

鳥羽シェフは、うま味であるアミノ酸と、うま味に厚みを持たせるミネラルを両方とも含むユーグレナに着目し、おいしさを引き出せる可能性があると言及。そして同じ藻類である昆布などのうま味を引き出すやり方が参考になるのではないかと述べる。

 

そんなユーグレナのおいしさを引き出すスペシャル商品の開発の一環として、ユーグレナのうま味を活かしたお弁当「優弁(ゆうべん)」を期間限定で販売。

 


sioで期間限定発売された「優弁」

 

「優」という一文字には、体への優しさと、優れた栄養価の意味が込められている(実はユーグレナの「ユー=ゆう」もかかっている)。食材としてのユーグレナの「うま味」を最大限に活かすため、ふりかけにしたり、卵焼きのアオサと合わせたり、西京味噌と合わせたりして作られたおかずの数々が、曲げわっぱの中に詰め込まれた。

 

「からだにユーグレナ グリーンパウダー 乳酸菌入り」を使用したチーズケーキもsioで提供。鳥羽シェフいわく、大豆やきなこっぽいユーグレナの風味が、シンプルなチーズケーキにより深みを与えるという。(優弁とユーグレナチーズケーキの提供は2021年7月中旬で終了)

 


ユーグレナチーズケーキ

 

また、一般消費者が真似して作ることができる既存商品のアレンジコンテンツとして、水や牛乳などに溶かして飲む粉末状の製品「からだにユーグレナ グリーンパウダー」を使ったフレンチトーストのレシピも開発。

 

その「おいしくて体にいい すごいフレンチトースト」は、フランスパンのバゲットを用いるシンプルなフレンチトーストで、まるで抹茶のような色と味の「からだにユーグレナ グリーンパウダー」との相性が抜群の、美味かつ健康的なレシピに仕上がっている。

 

砂糖やバターをたっぷり使ったどちらかといえば罪悪感を覚えがちな人気メニューに、ビタミン、ミネラル、食物繊維といった、身体に嬉しい成分が豊富なユーグレナを掛け合わせることで健康効果に期待も。さらに、鳥羽シェフが大きなこだわりをもつ点が「食べられるレベル」、ではなく「その食材が入ったことでよりおいしくなる」もかなえた一品になっているという。

 

からだにユーグレナ グリーンパウダーを使った「すごいフレンチトースト」

 

既存製品を美味しく食べられるレシピの公開のほか、ユーグレナを活用した新製品の開発も準備中だそうで、他社製品とユーグレナのコラボレーションなども行っていく可能性があるという。

 

今後のプロダクト開発に関しては順次発表していく予定だという。『ユーグレナ あとはおいしくするだけプロジェクト』の動向にぜひ注目したい。

 

ユーグレナのマーケティング担当者は、今回のコーポレートシェフとしての鳥羽シェフの起用について、次のようにコメントする。

 

本木氏:「もともと鳥羽シェフが弊社の副社長である永田の友人であったというご縁もあり、また、ユーグレナの素材開発・加工手法のブラッシュアップへの熱量に共感してくださったこともあり、今回コーポレートシェフとしてご一緒いただくことになりました。

ユーグレナは“藻”の仲間で、海苔やワカメのような磯の風味もあって、今発売している商品にたどり着くまでも、味の面で大変な苦労があったと聞いています。一方栄養価は非常に高く、味を更においしくすることができれば、食材としてパーフェクトに近い。まさに “シズらせがい”のある食材なのではないでしょうか。

“おいしくする”ことが喫食機会の拡大において避けては通れない課題で、いままでも自社栄養士監修で様々なレシピの提案などは行ってきていましたが、弊社には “おいしさ”のプロフェッショナルがいませんでした。今回鳥羽さんという“おいしさ”をプロデュースできる存在を得て、食材としての可能性をさらにもう一段階拡げていける期待感で非常にワクワクしています」

 

■素材の価値を新発見できるレシピ開発

 

シズるの活動は以前からも話題を呼んでいる。例えば、ロッテの「雪見だいふく」とコラボしたトーストメニューは大きな話題を呼んだ。

 

もともと雪見だいふくを愛してやまないと公言する鳥羽シェフ。「レストランで食べる雪見だいふく」をコンセプトに、SNSで話題の「#禁断の雪見トースト」をアレンジしたレシピを2品考案した。

 

シェフはシズるとしての活動以外でもこのような既存商品のアレンジを頻繁に行っており、例えばマクドナルドのフィレオフィッシュにマスタードをはさんだり、松屋の牛めしをアレンジした「牛わさび茶漬け」を考案したりと、身近に買える品を用いて、誰でも手軽においしさを楽しめる内容をSNSなどで配信している。

 

■今後、コーポレートシェフというPR手法が一般化するか?

 

マーケターとして気になるのは、これまでの「監修」という立場とは少し異なる「コーポレートシェフ」の新しさと可能性だろう。

 

今後、コーポレートシェフというPR手法は一般化するだろうか。また、そのポジションはどう定義づけられ、進化していくものと見込んでいるのか?

 

シズるの鳥羽シェフと皆川氏は、今後の見通しとしてこんなコメントを寄せてくれた。

 

鳥羽シェフ:「コーポレートシェフというポジションがこれから一般化するかは分かりませんが、レシピ開発だけの関わり方では、お客様に届けきるところまでやり切るのは難しいと思います。

商品開発、味の監修、コミュニケーション戦略などトータルで関われてこそ、純度が薄まらずにユーグレナの良さをお客様にお届けできるはずです。ビジネスパートナーという立ち位置ではなく、メンバーとしてユーグレナのおいしさを底上げしていきたいと思います」

 

博報堂ケトル 皆川氏:「ユーグレナの可能性と同時にこの仕事にとても大きな可能性を感じています。『おいしい』をど真ん中に置くことに変わりはありませんが、レシピ開発/商品開発/PRをすべてシームレスに、さらにクライアント/シェフ/クリエイターもシームレスに考え、時に領域を越境することで、今までにない化学反応が生まれるのでは?とワクワクしています」

 

食が多様化し、楽しみ方の幅も広がる中、一つの食べ方だけでなく、アレンジ提案をするなど、食品の提供側にも、より自由度が高く、アクロバティックな提案が求められていくことだろう。

 

食材の生産者・開発者と美味しさを創造する料理人がタッグを組むという構造は、実は旧来から行われてきている手法ではある。しかし、こと今回のコーポレートシェフの取り組みは、生産者側の身内として同じ視点で開発を行う近さが特徴的であり、依頼者であるクライアントと受託者である料理人、という構造とは全く違う、「チーム・ユーグレナ」に、“美味しさ開発担当”メンバーとしてシズるがジョインしたという、新時代的な働き方のスタンスも、実は大きなイノベーションであるように感じた。

 

コーポレートシェフという新しい手法に、今後注目していきたい。

 

 

【参考】

シズる株式会社
https://sizuru.co.jp/

note 鳥羽周作「新しい僕らのあり方は、松屋とマックが教えてくれた」
https://note.com/pirlo/n/n68ea7af5fbd5

株式会社ユーグレナ「ユーグレナ あとはおいしくするだけプロジェクト」
https://online.euglena.jp/shop/pages/oishikusurudake.aspx

 

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