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地方の魅力とマーケティングの面白さを知る
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地方の魅力とマーケティングの面白さを知る
酒井さんが旅行や日本文化に興味を持ち、造詣を深めるようになったきっかけ。それは10年ほど前、高校時代に俳句のイベント「俳句甲子園」に出場し、優勝したことだった。
「チーム単位で、俳句と俳句に対するディベートを行ってスコアをつける大会でした。これに優勝して、俳句に親しみを持つようになりました。俳句は大学進学後も続けたのですが、結果、俳句のテレビ番組や全国で行われているイベントに出る機会をいろいろといただくことができた。そんな経験により、今まで行ったことのないさまざまな場所に足を運ぶ機会が増え、旅が好きになったのです。
印象深かった場所はたくさんあるのですが、例えば四万十川。愛媛の宇和島から四万十川の奥に行ったことがありまして。四万十川自体は有名ですし、写真で見ると大きな川という漠然としたイメージしかなかった。でも実際に肉眼で見ると、すごく水が澄んでいて美しい川だった。しかも夏だったので、周囲は一面緑。そして、そこを1両編成の汽車がトコトコと走り抜けて行くんです。まさに"ザ・日本の原風景"を間近に見た気がしましたね。そして他にも長野の小布施町で見たリンゴ畑の風景や、京都の造り酒屋…本当にいろいろな場所で素晴らしい風景を見ることができました。
僕は名古屋で育ち、中学から東京に出て来たので、子供のころにそういった日本の原風景を見る機会は少なかった。その分、大学時代に自然の中で見たものの衝撃が非常に大きく、心が動かされました。47都道府県すべてに行ったことがあるのですが、大学時代は特にいろいろなものをたくさん見た気がしています」
そんな酒井さんは俳句の活動の傍らで、ベンチャー企業の立ち上げにも携わっていた。マーケティングの基礎を学んだのは、この時のことだ。
「人材教育系のベンチャー企業のお手伝いをしていました。東大受験レベルの高校生達に個別指導を行う学習塾運営の事業責任者を、2年半ほど。今から約10年前ですから、堀江貴文さんや藤田晋さんが登場し、IT企業にすごく勢いがあったころです。『自分も何かビジネスを手がけてみたい』と思った矢先に、高校の先輩から声をかけていただいたのがきっかけです。
一般的に東大受験レベルでは、個別指導塾のシェアは低い。1クラス5~10人で運営されている"東大受験専門塾"のような所が、当時はシェアの約9割を占めていました。ただし、学力が高い生徒に個別指導は有効ではない、ということは決してありません。マーケットでいえば、個別指導のニーズは学力に関係なく、一定数必ずある。そこを狙いにいったのです。
当時、マーケティングのマの字もよく知らないところから始めて、リスティング広告やSEO対策などを、実際に手を動かしながら覚えていきましたね。人手が足りないので、何でも自分でやらなくてはならなかった。でも、あの時に実際にやってみて、マーケティングの面白さを感じたことが今につながっている気がします」
東京大では法学部に在籍。だが、学校にはあまり行っていなかったという。
「外で活動してるうちに大学生活が終わっちゃった。そんな感じで…(笑)。就職活動を控えて進路を考えた時、B to Cビジネスで勝負したい、という気持ちが生まれ、企業をいろいろ回る中で出てきたのが、リテール向けのビジネスを強みにする大手都市銀行でした。
普通銀行の仕事といえば融資、というイメージが一般的だと思います。銀行でB to Cビジネスと言われても、当時の僕はあまりピンと来ませんでした。リテール向けのマーケティング戦略といっても想像がつかなかったのですが、どんなものなのか物珍しさ故に興味がわきました。それだけでなく、銀行は中途採用をほとんど行なわないというイメージもあって、入るなら新卒の今しかないと思いました。仮にどこかで方向性がずれたとしても、銀行の裏側を見るのはおそらく貴重な体験になるだろう。そう思ったのが、新卒で銀行に入った理由です」
4年間の銀行勤務で手がけたのは、リテール向けに投資信託などの金融商品を販売する仕事。ただし当時から、大学時代の経験を踏まえ、ゆくゆくはスタートアップに携わっていきたいという気持ちがあった。
「実は大学卒業寸前に、お土産のキュレーションメディアを立ち上げたんです。コンセプトは、地域のお土産をフックにして、そこに人を送って地域を活性化させることでした。当時Foursquareなど、位置情報を使ったアプリのビジネスがはやっていたので、そういった機能を上手く絡められないか、などと思いつつ、銀行に勤務しながら4年ほど運営を続けていました。でも、ビジネスとして成立させるのはやはり難しいと思っていた矢先、たまたま知ったのがLoco Partnersでした。
地域活性化をビジネスとして考えた時、本当に収益を上げることができるのか、疑問に感じるようなケースってすごく多い。地域活性化という題目でイベントやPRを行っても、実際の収益はぜんぜん違うことで上がっていたりもする。多くの場合、その辺がよく見えない。地域に人を送り、活性化させる仕組みを作るために、何より大事なのは収益力なんです。それはメディアを運営した経験の中で、ずっと思っていたことでした」
そんな状況の中でたまたま出合ったのが、現在COOを務めるLoco Partnersだった。
「この会社に来て初めて話を聞いた時、収益構造に関する考え方がとても明確だった。宿泊予約という大きなマーケットの中で、どのようなビジネスモデルでいかにして勝負していくか。そこがはっきりしていたんです。このモデルを実現させることで、永続可能な地域活性化の仕組みが作れるのではないか。その結果、自分がずっと考えていた地域活性化を実現できるのではないか。そう考えて1年前、この会社に入社したわけです。
この5月で1年が経過しましたが、当時の考えと現状の間にギャップはありません。『もっとこんなことができたのに、あんなことできたのに』と反省したり、日々いろいろなことを思いながら、毎日進んでいる。今はそんな感じですね」
最終回となるPart.4では、reluxの今後のキーとなるインバウンド戦略、そして2020年をメドに目指す「グローバルトラベルエージェント」像について、話を聞いていく。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです