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「モノの価値」とは、いったい何なのか

山口 絵里 やまぐち えり さん (株)FUN UP 代表取締役

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素材を組み合わせるだけで誰もがアクセサリーを作ることができ、購入や販売もできるサービス「monomy」が人気を集めている。企画したのは、株式会社FUN UP代表取締役の山口絵里さん。「モノづくり×IT」で日本の製造業をリプレイスしようと考える彼女の「企み」をうかがう。

写真=三輪憲亮


Part.2

 

■学校を辞め、"市場調査"のために世界一周

 

山口さんがmonomyのビジネスモデルを考えることになる原点。それは、21歳で世界一周の旅をした経験にある。

 

「当時はまだ少しバブリーな空気が残っていて、ブランドのバッグを持つことが当たり前のような時代でした。ブランドロゴにステイタスを感じ、高級車に乗ることがすごい、という価値観が当たり前で、私自身もそれに乗っかっていた気がします。

 

当時、英会話スクールに通っていたのですが、そこで接する外国人の先生がみんな言うんです。『日本人はおかしい。どうしてみんながブランドもののバッグを必ず持っているの?』って。彼ら曰く、日本に来たばかりの時は、日本人は全員お金持ちだと思っていた。でも話をよく聞いてみると、実は皆それほどでもなく『お金がなくて、クレジットカードの支払いが間に合わない』なんて言っている。それなのに、なぜ高価なブランド品や最新の携帯を買うのか意味がわからない。そんな文化は自分達の国にはない、と。私はそのころからアパレルが好きだったので、セレクトショップに行き、彼らと同じ目線で服を見てみました。すると、例えばTシャツが3万円で売られていたりするわけです。

 

『どうしてこれが3万円なのだろう。少し丈夫な素材を使っているからといって、そこまでの値段にはならない。他にも5万円の籠バッグ。これには刺しゅうがしてあるけれど、刺しゅうが上手い職人さんがたくさんいる国で作ったら、絶対にもっと安い。どうしてこんなに高いのだろう。モノの値段って何だろう』。

 

そんな思いで頭がいっぱいになっていきました。そして、『製造の一番川上が見たい。モノの価値とは何なのか、自分の頭の中でもう一度はっきりさせたい。その"市場調査"のため、世界を回ろう』と思うようになりました。

 

当時は東京の専門学校でファッションビジネス科に在籍していて、服を作る他にグラフィックやマーケティングを勉強していました。とても厳しい環境で1年通ったのですが、本質なマーケットの今がわからず、ここで課題ばかりに追われて必死になるよりも、辞めて世界を回り、自分で価値観を把握してそこから実際にビジネスに携わっていく方が有意義ではないか、と思い1年から2年に上がる選択をするときに辞める決意をしました。

 

 専門学校を辞め、貯金をするために実家のある名古屋に戻り、鬼の様にアルバイトを掛け持ちして働きました。それから約8カ月で稼いだ400万円とともに、出発の地ロサンゼルスへ。

 

アメリカ・サンフランシスコ

 

「当時ロスのブランドのファッションが流行していて、例えばTシャツが1万~2万円で売られていました。どうしてそんな値段になるのかを知りたかったし、あとは古着のレザージャケットが10数万円するような、いわゆるLAカルチャーの謎を、実際に自分の目で見て解明していきました。

 

そしてロスからサンディエゴへ行くと、また微妙にカルチャーが違いました。ローカルの若い人達はみんなビーチサンダルとデニム、Tシャツやタンクトップに帽子だけ、というファッション。毎日その繰り返しです。向こうでは当時すでにファストファッションが当たり前になっていて、お金をかけずに毎日おしゃれができる。さまざまな色のかわいい服とアクセサリーを毎日変えられるぐらい持っているけれど、お金がぜんぜんかかっていない。『こんなにたくさん買って1万円!?』みたいな世界でした。

 

アメリカでは当時すでにファストファッションが当たり前だった。

 

向こうでショップを見ると、売り方も違うことがわかりました。例えば日本で3万円で売っているようなデニムでも、発売から2週間ぐらいしたらすぐに50%オフで売ってしまうのが当たり前。まだ流行しているけれど、とにかく売り切っちゃうわけです。そして2枚買ったら3枚目はタダ、みたいな売り方をしている。日本は最後の最後まで値段を下げずに、ギリギリでやっと6割引き、というような売り方をして、結果的売れ残ってしまうようなことも多い。でもアメリカ人はその点、すごく見切りが早い。その売り切る姿勢に感心しましたし、売れ残りを出さないための合理性を痛感しました」

 

同時に、ハリウッドにある高級アパレルブランドの店舗も見てみた。

 

「圧倒的な価値を作っていましたね。500ドルのスカーフなんかが、当たり前のようにある。こういうお店は本来、ハリウッドセレブのような"お金を使いたい人達"のためにあるわけです。でも、そこになぜか日本人の観光客が来ている。

 

その後に回ったフランスなどヨーロッパ諸国もそうでしたが、現地の高級ブランドショップはどこもアジア人だらけ。そこにいる数少ない現地の人は、本物のお金持ちです。そもそも、別にフランス人がみんなルイ・ヴィトンを持っているわけではない。あれはフランスでも、本当のお金持ちの人達が持つものです。でも日本人は、お金持ちじゃなくても貯金して、たまに行った旅行で『えい!』と買う。なぜ日本人が海外で高級ブランドのショップにたくさんいるのか。その理由がよくわかりました。

 

イタリア・ミラノ

 

プラダやルイ・ヴィトン、エルメスなどの製品を作っている工場も実際に見学したのですが、例えば革製品の製造工場などはどのブランドも同じ所だったりする。結局はデザイナーさんの違いしかないのです。じゃあ、ああいった高級ブランドの価格の理由はいったい何かというと、例えばゴージャスなパーティを開いて顧客を集めたり、ミラノでファッションショーを開いたり、ということ。要はブランド価値です。もちろんブランドにはデザインセンスや技術などの圧倒的な魅力と価値があることは前提ですが、『ここの製品を持っているのは、ある種の限られたステイタスを持った人達ですよ』ということを示すようなマーケティングをして、そこに価値を感じている人たちも多いと思います。

 

例えば今、私が持っているウォレットは、ある世界的なブランドと同じ革を使って同じ製法で作ったもので、値段は5万円です。でも、そのブランドの商品は20万円。ということは、差額の15万円はブランドの店舗作りや展示会、プロモーションやパーティのためのお金になる。その仕組みを理解できました」

 

カンボジア・アンコールワット

 

 

■みんなが本質を知ってしまった

 

世界一周に加え、アパレルの販売や製造にこれまで携わってきたことで、モノの値段と社会の仕組みがはっきりとわかった。

 

「少し前まで、流行とは完全に『作られるもの』でした。例えばファッションブランドとファッション誌は完全につながっています。そしてシーズンごとに、モデルに何を着せるかをスタイリストさんが決めるのですが、そこには広告料などお金を払っているメーカーの意図が反映されます。『今回、このトレンドや形を推したい。これをイメージガールの人気タレントに着てもらいたい』という意向をくんで、雑誌の真ん中の一番目立つページで、人気タレントがその服を着て登場するわけです。そうすると雑誌の発売当日から『あの服はまだありますか?』という問い合わせが店に殺到。それをどんどん増産して売る。つまり、ある意味出来レースなのです。ある程度の企画された流行はその様にトレンド化されつくられていることがほとんどです。

 

でも今、その効力がなくなってきている。若い人が雑誌を読まなくなり、『人気モデルの誰かが着ている商品を買う』という考え方も変わった。例えばみんな、今は人気モデルのプライベートのインスタグラム投稿を見て『○○ちゃんが普段着ているこの服かわいい。どこのブランドのものか知りたい』とハッシュタグをチェックし、そこからファッションブランドのサイトに飛ぶなどして、トレンドを吸収し、好きな服を手に入れているのです。

 

要は、みんなが本質を知ってしまったわけです。モデルやタレントが着て雑誌に載っている服は撮影のためのもので、普段着は別。彼らもプライベートではもう少し一般的なものを着ていて、ファンから見るとその服の方がかわいかったり、日常生活で使いやすかったりする。それをタレントが『今日の服はこれだよ』と発信して、多くの人がそれに食いつく。そして次第に『お金をかけずファストファッションを着ても、彼女達みたいになれる』ということに気づいていく。

 

雑誌やテレビでモデルやタレントが着ているのは『流行を作るために着させられている服』であることが、ソーシャルメディアによって明らかになってしまった。そして雑誌やテレビの『作られた世界』への興味が減り、高級ブランドの存在感、価値が薄れている。それが現状な気がしています」

 

 

 また、ブランド品を買うことが減ると同時に、店舗でものを買う人も減りつつある。

 

「かつて、デパートは人が集まる場所でした。休みになると『デパートに行こう』で、私も20代前半はよく行きました。でも今、特に若い層はあまり行かない。ファッションが大好きな人や富裕層ぐらいです。平成生まれの若い子達はみんな『ユニクロやH&Mでいいよね』という感じ。デパートでブランド品を買うことはまれで、ファストファッションをインターネットで手に入れます。今のファストファッションはハイブランドを1着買う値段で小物に合わせて5着以上購入することができ、わざわざ値段の高いブランド品を買うメリットがないこともわかっている。そしてインターネットで購入もできるから、店舗に出かける意味も試着ぐらいしかない。だから、ショップで試着だけをしてインターネットで購入する人も格段に増えているのだと思います。

 

今は私もそうなのですが、3万円も4万円もするはやりのブランド品を買うことはなくなりました。それならば1万円以内でもたくさん買えるファストファッションで十分です。でも、長くずっと使うならば、品質の優れたいいものを買いたい。そうやって、安くてそこそこいいものと高価で本当にいい本質的なものを自由に選択できるのはすごくいいことですし、正しい形だと思います。これは、インターネットの発達で大きく変わったところだと思います。そしてモノづくりも、こうした時代の変化に合わせて変わっていかねばなりません」

 

次回Part.3では、山口さんのキャリアと「もの作り×IT」というコンセプトが生まれた背景を掘り下げていく。

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プロフィール
山口 絵里

山口 絵里 やまぐち えり

(株)FUN UP 代表取締役

愛知県出身。東京文化服装学院ファッションビジネス科を経て、21歳で単身世界一周の旅へ。帰国後は経営者を志し、バイヤーや商品開発、Eコマース事業の立ち上げを経験。その後はIT企業で制作技術を学びIT業界の世界へ転身。様々なプロジェクトにWEBデザイナーからWEBサービス企画などを経験。Yahoo!Japanでコンシュマー向けサービスの企画でWEBディレクターなどを担当した後、2011年に株式会社FUN UPを設立。当初は大手企業のメディアやアプリの企画、運用などに外部プロデューサーとして関わる。2014年末に新規サービスmonomyを企画し昨年ローンチ。現在は同事業に注力中。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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