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「世界のモノづくり」を変えていく

山口 絵里 やまぐち えり さん (株)FUN UP 代表取締役

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素材を組み合わせるだけで誰もがアクセサリーを作ることができ、購入や販売もできるサービス「monomy」が人気を集めている。企画したのは、株式会社FUN UP代表取締役の山口絵里さん。「モノづくり×IT」で日本の製造業をリプレイスしようと考える彼女の「企み」をうかがう。

写真=三輪憲亮


Part.1

 

■作り手自身が自らの価値を世に出し、マネタイズする

 

「簡単に言えば『もの作りでものを作らない』という発想です。売れるまで製造をしないことと、トレンドや圧倒的な量のパーツの組み合わせが鍵になります。いかによけいなお金を使わずに、ムダな在庫や廃棄処分といったロスをなくすか。この考え方を軸に考えています。
monomyでは、画像だけあればすべてのものができてしまう。バーチャルでものができ、それをバーチャルなまま売ることができ、買うこともできる。ほしいものを指先一つで自由に作ることができる。その出来がよければ、評価され、多くの人が買うようになると、その分、価格も下がる。そんな世界を作っていきたい。

インターネットがこれだけ普及した今は、まさに『個の時代』。誰もがデザイナーになれて、作る手間も配送する手間もいらない。このサービスが大きく育てば、間違いなく日本のもの作りを変えることができると思っています」

 

語るのは、スマホアプリを使って誰でもオリジナルのアクセサリーを作ることができるサービス「ものづくりマーケット monomy(モノミー)」を開発した、株式会社FUN UP代表取締役・山口絵里さん。
monomyを使えば、誰もが自分のブランドを持ち、オンリーワンのピアスやブレスレットなどをスマホ上で作成、購入、販売することができる。

 

 

「スマホ画面を指で操作し、それらのパーツを組み合わせるだけで、自分好みのアクセサリーを簡単に無料でつくり、出品することができます。現在、日本国内で40社以上のパーツの卸と提携し、選べるパーツは3000種類以上。ユーザーは指1本でそれらを組み合わせてアクセサリーをデザインし、それらの素材を使って、FUN UPのスタッフがデザインされた作品と同じように手作業で組み立てます。アクセサリーの販売、製作、配送などはすべて弊社で行うので、作り手はデザイン作りに徹することが可能。完成した商品は注文から早くて3日間から1週間ほどでお届けしています。

 

まずはmonomyをダウンロードいただき、最初にデザイナーとしての名前と自分のブランド名の登録をします。要はユーザーの皆さん個人のブランドショップが、このアプリの中にあるわけです。そして、アクセサリーを作るとタイムライン上にそれが表示され、気に入ったものがあれば『Like』をつけて評価したり、情報をシェアしたりすることができます。要はこのアプリはオリジナルアクセサリーのブランドが集まったクリエーターズマーケットであり、ソーシャルメディアでもあります。作ったものの著作権はすべてユーザーに帰属し、私達はそれを自由に売ることができる権利をいただいています。今も皆さん、どんどん新しいものを作っていますが、1個作るぐらいでは終わらず、何種類も作って下さる方も多いです」

 

 

実際に動かしてみると、その使いやすさに驚かされる。まずはイヤリング、ピアス、イヤーカフ、ネックレス、ブレスレットといったカテゴリを選択し、ベースとなるパーツを決定。そしてベースにつなぐパーツを選び、それをパズルのようにスマホ画面上でつなげていく。人気の理由の一つが、指1本で好みのアクセサリーを作れるユーザビリティの高さだ。

 

「初めて作る時にガイダンスに沿って行えば、誰でも作ることができます。大切にしているのが、アイデアを心地よく可視化できること。そのためには、ユーザーインターフェースを重視。指でタッチするとパーツはリアルに揺れ動き、時には転がったりもします。付けたり外したりも簡単ですしバーチャルで試着もできますから、心地よくてついついたくさん作ってしまうような状態を目指しています。パーツのリアルな動きにはすごくこだわって、何度も何度もやり直しながら作っていきました。パーツの重さや、パーツをチェーンにつなげた時の揺れ、製作途中で落ちてしまった時のコロコロと転がるようすなど、リアルで楽しい動きを再現するため、時間を掛けて丁寧に作り込みました」

 

2016年8月にローンチされたmonomyは若い女性を中心に30代、40代までにも支持され、これまで出してきた商品数は約40万点に上る。昨今、ハンドメイド品のCtoCマーケットは活況だが、monomyで作るアクセサリーはそれらとは明確に一線を画している。

 

「いわゆるハンドメイドマーケットのアクセサリーは、基本的に遊びのためのもの。その点、私達が扱っているパーツはかなりクオリティの高く、パーツのモノによってはセレクトショップに入っているようなブランドが出しているアクセサリーとほぼ同レベルです。長年使ってもぜんぜんボロボロになりませんし、酸化もせず長持ちします。もちろん製造体制もきちんとしています。例えば3回検品をしてから発送しますし、アフターケアもしっかりと。日本のもの作りをさらに世界に出すためにも、その部分のレベルを下げることはできませんから。ただし、スマホの画面上ではパーツの質の高さがなかなか伝わりにくいのも確か。そこをしっかりと説明していくのは、今の課題かもしれませんね」

 

 

monomyの人気が高まっているのは、自らデザインしたアクセサリーを買えることだけが理由ではない。自らのブランドとして他のユーザーに販売して評価されたり、他のユーザーがデザインしたアクセサリーを購入することができ、マイページ上に登録したデザインが売れると、販売価格の10%のインセンティブを現金で受け取ることができる。アクセサリーをデザインするだけでなく、販売して利益を得ることも可能なのだ。

 

「今の購買数の中では、約6割が自分でデザインしたものの購入で、約4割が自分以外のユーザーからの購入です。実はもともと、他者からの購入はもっと少ないだろうと思っていたのですが、よく考えてみたら私もそうでした。私も自分でアクセサリーを作るのですが、他のユーザーが作ったものの方が魅力的に思えるんですね。自分のセンスと合う人を見つけて、その人のブランドのページに行って他のものも見て買うのも、大きな楽しみなんです。

 

 

monomyは簡単に操作できることが特徴ですが、うちの株主の娘さんで9歳の女の子がいるのですが、彼女は自分で作り始めて今『Like』を130ぐらい取っています。実際に1個売れていて、10%のインセンティブが入っています。彼女は指先一つで自分の価値を世に出し、それをちゃんとマネタイズしているわけです。

 

この部分が上手く機能すれば、もっと大きな世界で戦えると考えています。例えば貧しい国の人達は、お金を稼いで経済的に豊かになるための方法論がわかっていないことが多く、義援金を渡してもあまり意味がない。それならばタブレットを学校に置き、その国の子供達に、学校の休み時間にアクセサリーを作って投稿してもらう。それを富裕国の人達が買ってくれたら、10%が彼女達に入る。単純労働ではなく、自分で自分の価値を発信して、収益を上げることができる。これは、教育的側面から見ても素晴らしいことだと思います

 

 

■「日本製」は本来、決して高くない

 

monomyのユニークで新しいビジネスモデル。その背景には、山口さんがかねてから心に抱いていた問題意識があった。

 

「製造とは大まかに言うと、まずデザイナーさんがいて、彼らが考えたものを職人さん達が一旦サンプルという形にしていく、という流れ。そこに一般消費者が関わることは、ほぼありません。最終的にものを買うのは一般消費者ですが、彼らはもの作りに対してほとんど何も言えず、ほしいものはブランドを見つけたり、自分で探します。私が変えていきたいと考えているのは、この構造です

 

 

日本製の商品は質が高い分、価格も高い。そんなイメージがありますが、実際の原価はそれほど高くありません。高いのは明らかに、中間マージンを取り過ぎているから。国内取引には、横流しするだけの卸がいくつも介在し、その都度2割、3割と価格が上乗せされていきます。中間マージンによってどんどん価格が高騰し、店頭に並ぶ時にはブランド料が乗る。そして、そこに売れ残りの廃棄分がオンされます。

 

私は以前、若い女性向けのアパレルショップに勤めていたことがあるので知っているのですが、毎シーズンごとに新しい商品に入れ替えねばならず、全体の3割から6割の商品は売れ残り、廃棄されていく。その分が価格に乗せられ、最終的には、もともと圧倒的な安価で作ってたものが1万円以上で売られていたりする。これが今の日本のアパレル業界の現状です」

 

日本や海外でものを作り、それを消費者が買うまでには多くのムダが存在し、それが価格に含まれているのだ。

 

日本のプロダクトのクオリティはすごく高い。でも、それを作っている人は、大量に作らないと儲けられない仕組みになっている。でも、もしも消費者がmonomyを使って自分でデザインを決めることができれば、まさにほしいものを手に入れることができ、そこにしっかりとお金を払ってくれるはず。注文してから作るので在庫にならず、売れ残りも中間マージンも、店舗を持つことによる費用もありません。もしこれが当たり前になれば、日本の製造文化はがらりと変わる

 

 

今は個の時代。ごく一部の富裕層を除いて、パリコレが流行を作り出し、それが流行になるような時代は変化してきています。例えば、インスタグラマーなんてそうですよね。あのメイクやファッションは、自分で考えた組み合わせで作り出したもの。自分のセンスは自分で作る。それがソーシャルメディアなどを通じて誰かに認められることで、自らの付加価値を高めていく。そういう時代なんですよね。だからこそmonomyはアクセサリーにとどまらず、日本のもの作りを大きく変えていく可能性があると思っているのです」

 

次回Part.2では、山口さんのキャリアにおける原点となった世界一周の旅での気づきについて、話を掘り下げていく。

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プロフィール
山口 絵里

山口 絵里 やまぐち えり

(株)FUN UP 代表取締役

愛知県出身。東京文化服装学院ファッションビジネス科を経て、21歳で単身世界一周の旅へ。帰国後は経営者を志し、バイヤーや商品開発、Eコマース事業の立ち上げを経験。その後はIT企業で制作技術を学びIT業界の世界へ転身。様々なプロジェクトにWEBデザイナーからWEBサービス企画などを経験。Yahoo!Japanでコンシュマー向けサービスの企画でWEBディレクターなどを担当した後、2011年に株式会社FUN UPを設立。当初は大手企業のメディアやアプリの企画、運用などに外部プロデューサーとして関わる。2014年末に新規サービスmonomyを企画し昨年ローンチ。現在は同事業に注力中。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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