歴史ある企業だからこそ生み出せる“ゼロから1”|マーケターの企みVol.42:㈱バスクリン ダイレクトマーケティング部/「バスクリン銭湯部」部長 高橋正和さん(3/4)

 
今月は、株式会社バスクリンの公認部活動「バスクリン銭湯部」の部長であり、同社のダイレクトマーケティング部に所属する高橋正和さんにお話をうかがう。徐々に失われつつある日本の文化・銭湯。バスクリン銭湯部は文字通り同社の社員のレクリエーションでありつつ、同社のインターナルブランディング、そして2020年以降に向けた新たな企みの一部でもある。高橋さんが考える、社内の「部活動」を起点としたユニークな構想と実例、そして日本ならではの「お風呂文化」のこれからについて、紹介したい。
 
文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮
 

Part.3
 
歴史ある企業だからこそ生み出せる“ゼロから1”。

 
Profile|高橋正和(たかはし・まさかず) 
1986年千葉県出身。学生起業~ベンチャーでの経験を経て、2012年に株式会社バスクリン入社。ダイレクトマーケティング部に所属。2015年4月に「バスクリン銭湯部」を立ち上げ、部長となる。温泉入浴指導員、スキンケアアドバイザー、サウナ・スパ健康アドバイザーなどの資格を保有。銭湯部の活動を通じて、日本の文化である「FURO」の魅力を伝えることに尽力する。
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■ただ売れればいい、ではなく、本当にいいものを生み出したい。


 高橋さんの今に至るキャリアは、大学時代の起業からスタートした。

 
「大学2年の時、神奈川県の三浦市をPRするアンテナショップを立ち上げたんです。その時に感じたのが、ゼロから1を作っていくことの面白さでした。今まで存在しなかったものが、世の中に必要なものへと変わっていく。その素晴らしさを社会に出ても味わいたい。その思いが僕の原点だと思います。
 
卒業後は設立4年目のベンチャー企業に入社し、マーケティングに携わりました。ゼロから1を作る仕事も携わり、アイデア力を生かして最優秀新人賞にノミネートされたこともありました。その一方で、ベンチャーの限界に気づき始めました。4年ほど勤務したのですが、ベンチャーが生み出す事業は時として、あまり質の高くないものがある。
 
ベンチャーにとって、大事なのはまずアイデア。そして何より売れるかどうか。売れるものを逆算して作っていくのがやり方ですから、時として“中身のクオリティー”についての議論が充分でないと感じることもあった。そんな中で、売り文句ばかりが先行して、中身のクオリティーが追いついていないものが生み出されていることもベンチャーにはあると思います。もちろんそれは成長の過程ということでもあるのですが。こういうゼロから1って、世の中にとって本当にいいものなのだろうか。そんな疑問がありました」
 
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 ただ売れればいい、ではなく、本当にいいものを生み出したい。そんな思いが強くなるにつれ「ベンチャーでは自分のやりたいことはできない」という思いが募っていった。

「次のキャリアに向け、宣伝はそれほど派手にやっていなくても、歴史があって商品の研究開発力に優れている会社を探しました。そういう会社こそ、世の中にとって本当に価値のあるものを生み出せる。そう考えて入社したのが、120年を超える歴史があり研究を続けてきた株式会社バスクリンでした。
 
入社の決め手になったのは、社長の言葉でした。最終面接で『高橋君、事業を成功させるために一番重要なポイントは何だと思う?』と聞かれまして。いろいろと答えたのですが、社長がひと言『結局、商品なんだよ』と。その瞬間『ああ、ここだな』と思いました。この会社には、日本の入浴文化を支え続けてきた知見と、歴史が詰まっている。こういう会社こそ、ベンチャーで生めないものを生み出せる。まさに、自分の問題意識にぴったりはまった気がしました
 
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 人の健康を支え、“やりたいことの実現”を助けていきたい。根底にはそんな思いがあった。

「株式会社バスクリンは日本で最初の入浴剤を作った会社。だから、それができる会社だと思いました。ベンチャー企業に勤めていた時、激務のあまり体を壊したり、高い志を持っているのに体力がついて行かず、志半ばで“やりたいこと”を諦めてしまう人をたくさん見てきました。それがすごくもったいなかったし、僕自身も一度、体を壊しかけたことがありました。
 
その点、バスクリンの商品が広がり、お風呂のよさがより多くの人に伝わることで、多くの人の健康とやりたいことを支えられる。これはベンチャーにいたからこそ、気づけたこと。お風呂の健康面での効果と株式会社バスクリンという会社の存在意義。それが、自分の軸と合っていたんです」
 

■お風呂の気持ちよさを通じ、社内、社外に「横串」を通していく。

 
 銭湯という日本の入浴文化の出発点をどうにかして守りたい。そんな思いからスタートしたバスクリン銭湯部の部員は現在10名。部活動として都内のさまざまな銭湯を回り、裸のつき合いを続けるうちに、部員同士のコミュニケーションも深まっていった。

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「こうした部活動をいろいろな歴史ある会社が真似してくれたら、すごくうれしい。例えばコーヒーの飲料メーカーが『純喫茶部』を作ったりとか、そういうことですね。コーヒーを飲みながら会話をしたら、それが新しいビジネスのヒントになるとともに、社員同士が親睦を深める機会にもなる。縦割りになりがちだった組織に、その会社の強みを生かした部活が横串を通す。それが、新しいイノベーションが生まれるきっかけになるかもしれない。会社のノウハウを活用できるので、会社の活性化につながるかもしれない。
 
そのように、事業に少しでも関係のある部を立ち上げることの意味は、すごく大きい。その辺が、完全なレクリエーションだけを目的とした部活との大きな違いですね。特にコミュニケーションという面で言えば、ウチの会社はいわゆる中間層が少なかったりします。そのため、若い人と年配の人の間のギャップが、ふだんの業務時間だけではなかなか埋まりにくい。でもそこで、一緒にお風呂に入って裸のつき合いをして、会社の歴史の話を聞いたりすることで、思わぬ収穫が生まれたりする。銭湯が、会社の歴史やノウハウの伝承の場になっているんです。
 
先日、社内で『提言コンテスト』というものがありまして。これは、社員から事業アイデアを募るものなのですが、これにバスクリン銭湯部から提言をさせていただきました。内容はまさに、僕らが今やっている活動そのまま。日本のお風呂文化の原点を、若手社員の僕らが守るというものです。どの会社も、第一の命題はその年の利益追求です。でもそこを追いすぎるだけでは足りないと思うんです。5年後や10年後、20年後に僕らはどうなっていくのか、世の中から見て僕たちはどのように存在、どのような役に立てる存在なのだろう、という視点を持つことが大切だと感じます。だからこそ、会社と一緒に未来を作っていく活動をしたい。そんな提案を銭湯部から行い、審査員特別賞をいただくことができました。」
 
 またバスクリン銭湯部の活動は、社内を越えて、グループ会社とのコミュニケーションのきっかけにもなっている。
 

大塚社内報グループシナジー例「ハンズ湯」

大塚グループ社内報「大塚社内報」にて、バスクリン銭湯部コラムを連載中。写真は「バスクリン銭湯部」も協力した東急ハンズ池袋店×豊島区銭湯のコラボにより開催された「ハンズ湯」の記事。


 
ウチには『大塚社内報』という、大塚製薬さんや大塚食品さん、アース製薬さんなどの社員が読んでいるグループ社内報というものがあります。ここにバスクリン銭湯部で連載を持ち、活動を毎月紹介しています。グループ会社さんの中には海外の拠点もあり、合わせるとすごくたくさんの人が読んで下さっている。社内、社外ともに認知されつつあり、活動がどんどん進めやすくなっている気がします。また活動を通じて、当社にはお風呂好きの社員が多いということをあらためて気づくことができました。まさに社員は最強のお風呂ファン。この結びつきを強くすることで、世の中を良くするヒントが生み出されていくと思います。」
 

 最終回となる次回は、銭湯部の今後の取り組みについて、話を掘り下げていく。

 
(Part.4に続く)
 
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