『お風呂っていいよね』という共感から、はじまる。|マーケターの企みVol.42:㈱バスクリン ダイレクトマーケティング部/「バスクリン銭湯部」部長 高橋正和さん(1/4)

 
今月は、株式会社バスクリンの公認部活動「バスクリン銭湯部」の部長であり、同社のダイレクトマーケティング部に所属する高橋正和さんにお話をうかがう。徐々に失われつつある日本の文化・銭湯。バスクリン銭湯部は文字通り同社の社員のレクリエーションでありつつ、同社のインターナルブランディング、そして2020年以降に向けた新たな企みの一部でもある。高橋さんが考える、社内の「部活動」を起点としたユニークな構想と実例、そして日本ならではの「お風呂文化」のこれからについて、紹介したい。
 
文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮
 

Part.1
 
『お風呂っていいよね』という共感から、はじまる。

 
Profile|高橋正和(たかはし・まさかず) 
1986年千葉県出身。学生起業~ベンチャーでの経験を経て、2012年に株式会社バスクリン入社。ダイレクトマーケティング部に所属。2015年4月に「バスクリン銭湯部」を立ち上げ、部長となる。温泉入浴指導員、スキンケアアドバイザー、サウナ・スパ健康アドバイザーなどの資格を保有。銭湯部の活動を通じて、日本の文化である「FURO」の魅力を伝えることに尽力する。
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■銭湯は日本の入浴文化の原点。


 活動内容はさまざまだ。メンバーで定例的に都内の銭湯を巡るだけではなく、メディア「東京銭湯-TOKYO SENTO-」(http://tokyosento.com/)とコラボした情報配信、日本の入浴文化の世界無形文化遺産登録に向けたプロジェクト推進、銭湯に図書館を作る新たな試み「銭湯ふろまちライブラリー」、社内勉強会「バスクリン大学」など、銭湯という素晴らしいカルチャーを守り、新たな魅力を発見するためのさまざまなプロジェクトを企画・立案する。

 
「これまでの取り組みで見えてきた課題は、銭湯も入浴剤も、業界の枠を超えたビジネスがまだまだ少ないこと。これは、私がベンチャー企業を経て入ったからこそ、強く感じることかもしれません。0から1を生み出す視点でニュートラルに見つめ直すと、お風呂業界はまだまだ発展できると確信しますし、そこの仕掛け人になりたいです」
 

 語るのは「バスクリン銭湯部・部長」の高橋正和さん。

 
お風呂を生活者目線で見直すと、潜在的な多くの広がりがあります。お風呂上がりという目線で見れば飲み物やアイスクリームや化粧品、健康という視点から見ると体重計やジムエクササイズ、文化体験でいえば旅行や交通、といったように、さまざまな企業や人を絡めることができる。
 
そして『バスクリン銭湯部』を立ち上げてわかったのが、お取引先各社やまったく違う業界にも銭湯好き、お風呂好きは必ずいらっしゃるということ。それだけ『お風呂』のポテンシャルは高い。入浴剤の市場規模はここ数年、ずっと500億円前後をキープしている状態です。生活者とお風呂との接点をもっと見直し、結びつきを深めることで、市場は何倍にも大きくなる
はずです」
 
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 高橋さんは株式会社バスクリンのダイレクトマーケティング部に所属し、入浴剤や化粧品ブランドのマーケティングを担当。ベンチャー企業を経て2012年に入社し、現在5年目。もともとお風呂が大好きだった高橋さんは入社後、銭湯が減りつつある現状をどうにかしたいと考え、2015年に社内の公認部活動として「バスクリン銭湯部」を立ち上げた。

 
「父親がお風呂好きで、家族でよく銭湯に行っていました。銭湯では父と会話をして、父の背中を見て、長風呂の仕方やサウナの入り方を知るなど、たくさんの思い出があります。私にとって銭湯は、家族の大切なコミュニケーションの場。そして、日本の入浴文化の原点だと思います。
 
でも全国の銭湯の数は、この20年で約1万1千から2800まで減少しているのが現状です。ウチが取り扱う入浴剤はほとんどが家庭用なので、会社の売り上げとしては、銭湯が減っていくことによるダメージはそれほどない。でもこれから10年20年後、銭湯というよき日本の文化が失われてしまうかもしれない。そこに大きな危機感を覚えたことが『バスクリン銭湯部』を立ち上げたきっかけです。2012年にバスクリンに入社し、この会社が日本の入浴文化を作り上げてきたことを実感。日本のお風呂文化の出発点をどうにかして守る活動をしたい、と思いました。
 

銭湯の登録件数推移

銭湯の登録件数推移


 
また今は、東京オリンピック・パラリンピックを3年半後に控えたタイミングでもあります。これから日本を訪れる多くの外国人の方々にも、銭湯を知ってもらえる。そんな素晴らしいタイミングでもあります」
 
 
■今の事業展開に沿った流れの、会社にもメリットがある活動形態。

 
 高橋さんは、銭湯という貴重な文化を守るための拠点として「社内の公認部活動」という形を選んだ。
 
「もちろん、会社には他にもいろいろな部があります。例えばフットサルとか。野球とか。会社の事業には直接関係のない社員のレクリエーションとしていろいろな部があり、銭湯部はその中の一つです。
 
どうすれば銭湯という、日本のお風呂文化の原点を守れるのか。もちろん、会社の事業とは親和性が高い。まずは当然ながら、どうやって会社を巻き込んでいこうか、と考えます。例えば伊藤園さんの『茶ッカソン』のように、お風呂×ハッカソンのイベントからスタートしてはどうか、例えば販売促進やCSRイベントの一環で何かをするとか、社内の部活動という形に至るまでに、いろいろと頭を巡らせました。
 
ただし、バスクリンは歴史のある会社です。突発的な考えやイージーなアイデアは、なかなか形にできません。だから今の事業展開に沿った流れの中、会社にとってもメリットがある活動形態は何かを考えました。やはり、会社にはきちんと応援してもらいたいですから」
 

 銭湯という文化を守るために、どんなことができるか。そして、会社が応援してくれる環境を作るにはどうすればいいのかを、高橋さんは自ら都内の銭湯を巡りながら考えていった。

 
「ウチの行動指針にもあるのですが、まずは現場に足を運ぶことから。現実を知るとともに、まだまだ知らないことがたくさんあることもわかりました。そして、どういう形ならばこの思いを実現できるか、会社と一緒に力を入れてやっていけるかを考えていきました。
 
自分一人で始めることもなくはなかったのですが、やはり人を巻き込んでいこう。そう考えて相談したのが、総務・人事の部長職の者でした。彼はツムラ時代からバスクリンのことをよく知っており、柔軟な発想をする人。キャリアとしても経験が豊富で、フラットな目で会社の事業を見ることができるので、こういった提案にも耳を傾けてくれるのではないかと思いました。部活動の形を取ることは、その人との会話の中でヒントを得たことです。
 
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バスクリン銭湯部として日本のお風呂の原点を守っていくことは、日本のお風呂文化をリードしてきた会社として、非常に意味がある。銭湯の減少を食い止めて、貴重な文化を守り、活性化する。もっと言えば、銭湯だけではなく、自宅のお風呂もスーパー銭湯も温泉も含めて『お風呂っていいものだよね』という思いを、より多くの人に持ってもらう。そのためにも銭湯の魅力をアピールし、守っていく活動をすべき。まずは共感でつながっていく。自分の考えをそのような形に落とし込んでいきつつ、ベストだと思ったのが、部活動制度を利用すること。そこでその方に『銭湯部という形でやりたいので、ぜひ一緒に』とお願いしたことで、バスクリン銭湯部の立ち上げにつながっていきました」
 
 次回Part.2では、バスクリン銭湯部のその後の活動と高橋さんのキャリアについて、話を掘り下げていく。
 
 
Part.2に続く