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できる限りの未来を予測する

大久保 伸隆 おおくぼ のぶたか さん (株)エー・ピーカンパニー 副社長
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part.4

 

■学生・企業・大学。3者のオールウィンを目指す。

 

大久保さんによるEIS(Employee Impressive Satisfaction=従業員感動満足度)向上戦略は、他にも多々ある。例えば就活支援コミュニティ「塚田農場キャリアラボ(通称ツカラボ)」。しかしなぜ、塚田農場が就活支援に取り組む必要があるのか。

 

学生は就活時期になると就活に専念するため、バイトを辞めたり、シフトを減らしたりします。毎年、冬になるとその問題が起こり、正直、困っていました。そこで就活について調べてみると、今の就職活動にはさまざまな問題があるとわかった。今の就活は明らかに、学生の可能性を狭めている。いろいろ調べてるうちに、そうした問題を解決することは、決して難しいことではない、とも思いました。

まず企業としては、いい学生を効率よく採用したい。学生はなるべく早く就活を終わらせ、できる限り遊びたい。一方、大学は内定率を上げつつ、もっと勉強もしてもらいたいわけです。その点で今の就活は、誰もハッピーになれていない。そんな現状に疑問を覚え、この3者がオールウィンできる仕組みを作ろうと思いました。そこで考えついたのが『参加した学生に納得のいく就活のやり方を教え、100%内定を取らせること』にコミットした研修を作ることだったのです」

ツカラボはもともと、学生が安心してアルバイトに取り組めるように錦糸町店で行っていた取り組みだったが、現在は全社的な取り組みとして行われている。毎月1回、大久保さんが自ら登壇するセミナーや、エー・ピーカンパニーが主催する合同企業説明会、多彩なゲストによる講演など、内容は多岐にわたる。

 

大久保さん自らが講壇に立つことも
大久保さん自らが講壇に立つ「キャリアラボ」。大久保さんの話を聞き入る学生の目は真剣そのものだ

 

「大学生とはいえ社会人1歩手前の大人が、親のスネをかじって就活するのはカッコ悪い。でもこのシステムがあれば、学生はバイトしながら活動でき、就活に使う時間もコストも減らせる。そして大学は、黙っていても内定率を上げられる。まさに、いいこと尽くめです。

でも3者オールウィンとなるには、企業側にメリットが少なかった。そこでさらに考えたのが、学生と提携企業を結ぶことでした。要は、ウチが提携している企業による選考優遇です。もともとのきっかけは、ある上場したIT企業から『塚田農場でアルバイトしている学生を採用したい』という申し出があったことでした。ウチでバイトしていた学生なら、試験なしにいきなり内定で構わない、と言って下さったのです。企業は一般的に、採用には一人当たり多額のお金をかけています。ところがこの選考優遇は、企業側から見れば採用コストがゼロ。しかも働き方は、塚田農場での接客を通して、納得したうえで利用できるので、、効率もいいのです

 
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ツカラボの実施により、アルバイトの在職期間がそれまでと比べて約1.87倍になったという。

 

在籍期間が倍になれば、ウチとしてもアルバイトの採用コストが半分になるわけですから、大きなメリットになります。そして学生の間で『塚田農場でバイトすると就職が有利』という流れができるので、さらにいい人材が来てくれる。まさにオールウィンのシステムになりました。

また、他にもツカラボの進化版として「おもてなしラボ」そして「体験ラボ」といった取り組みもあります。おもてなしラボは、企業と組み、その会社のサービスを体験する研修です。塚田農場だけでなく他業種も経験することで、仕事に関する知識がより深まります。また、その会社を志望する気持ちが高まれば、選考を受けることも可能です。

 

「おもてなしラボ」
おもてなしラボの様子。この回のテーマは「子ども服の販売」。話し合いやディスプレイなど本番さながらの職業体験ができる

 

そして体験ラボですが、弊社は北海道と鹿児島、宮崎に養鶏場、定置網と漁船を持っています。それらを利用して、アルバイトに現地に行ってさまざまな体験をしてもらう、というものです。例えば養鶏場の加工センターでの研修では、くちばしをカットするデビークという作業をしてもらう他、加工センターで実際にさばいてもらいます。

要は、食の内側にあるものまでを、きちんと見てもらうわけです。そして、その上で生産者と語り合い、飲む。それにより生産者の熱量に触れることができます。時には現状の生計の厳しさ、国の対応の遅さに対しての愚痴を言う生産者だっているでしょう。でも、それも含めたすべてを聞いて来い、と言っています。

体験ラボは、エー・ピーカンパニーという一つの企業を徹底的に知る、非常に重要な機会になります。そして体験ラボに参加したアルバイトは、ネットや本で調べたことを話すのではなく『自分の体験と自分の言葉で語れる』ようになる。それはツカラボを始めとするEIS戦略の、一つのゴールでもあります。社会人になる前に、会社というものを理解しておくことは、本当に重要なことです

 

体験ラボの様子。
体験ラボの様子。農家を訪問したり漁船に乗ったりと生産の現場を知る貴重な体験だ

 

 

■「人」と深く関わり「人」の可能性を突き詰め続ける。

 

もちろんこれらEIS戦略の他にも、エー・ピーカンパニーはさまざまな展開を見すえている。例えば、ウエディング事業。この3月、株式会社CRAZYと共同でウエディング事業を手がけることを発表した。その背景について、大久保さんはこう語る。

 

「まず、新卒採用でウエディング業界と競合することがよくありました。そして『この会社でウエディング事業をやってみたい』と考える新卒社員が多くいたこともあり、以前から、いつかやりたいと意識していたのです。そして、食にまつわるさまざまな事業を手がけていくのがうちの方針なので、社員には現状の"居酒屋業態"だけじゃなく、多彩なキャリアを積んでほしいとも思っていました。

ウエディング業界はそもそも、料理にクレームが来ることがほぼありません。逆に言えば、食事がまずくても本音を言えない…。おいしくなくても『こんなものだよね』『まあ、よかったよね』と言って、招待されたお客さまはみんな帰っていく。

でもウチならば、生産者とのネットワークと彼らの『素材力』を使って、本当においしい料理を提供することができる。しかも日本全国に生産地があるので、新郎新婦のストーリーにゆかりのあるメニューを出すこともできます。

 

株式会社CRAZYとともに手がける専用会場「UNION HARBOR」のコンセプトは「個性の数だけ変化するハコ」
株式会社CRAZYとともに手がける専用会場「UNION HARBOR」のコンセプトは「個性の数だけ変化するハコ」

 

またサービスについても、これまで申し上げてきた通り、優れたスタッフをたくさん抱えています。通常の結婚式でサービスするのは派遣スタッフですが、ウチは店舗でスキルを磨いた人材のサービス力を生かすこともできる

 

また今後は、海外展開にも本格的に力を入れていく。特に注力するのはアメリカ、中国そして東南アジアだ。東南アジアについては現在すでにシンガポールに進出しているが、今後はインドネシアにも広げる予定だそんな未来を見すえ、大久保さんは今後の展望をこのように語る。

 

「上場企業ですので、もちろん事業計画や今後のビジョンは必要。もちろん、それらはきちんとした数字を出します。でも戦略面では、あまり計画に縛られたくない。なぜなら、時代は予測を遥かに上回るスピードで動いていますし、今後、どんなテクノロジーが登場してくるかも、わからない。下手なビジョンに引きずられることで、会社がガタついてしまう可能性だってある。だから『五か年計画』みたいなことは、あまり考えたくない

 

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今、目の前で起きていることに敏感になり、そこから、できる限りの未来を予測する。それが僕のスタンスです。例えばロボットを使ったハウステンボスの『変なホテル』に泊まり、ロボットのサービスを受けて、ロボットにできることが増え、技術がさらに向上した時、人間にしかでいないことは何なのかを考える。その傍らで会社の理念をより多くの人にアウトプットし、ロボットに決して負けない優秀な人材を育てていく。今、当たり前に思うことが、今後どう変わるのか、どう変えられるのかを頭の中で考え続けていきたい、と思っています

 

テクノロジーの急激な発展とともに、未来はきっと大きく動いていく。だが今後、社会がどう変わろうと、「人」と深く関わり「人」の可能性を突き詰め続ける。それが、大久保さんの揺るがぬ思いだ。

(終わり)

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プロフィール
大久保 伸隆

大久保 伸隆 おおくぼ のぶたか

(株)エー・ピーカンパニー 副社長

1983年千葉県出身。大学卒業後、大手不動産会社に入社するも約1年で退職。大学時代にアルバイトした飲食店の仕事の面白さが忘れられず、2007年エー・ピーカンパニーに入社。わずか3カ月で葛西店の店長に昇格し、地元一の人気店に成長させる。
2008年、錦糸町店の店長に抜擢。ユニークなリピート戦略を打ち出して年間2億円の売り上げを記録。錦糸町店はのちに伝説の繁盛店と呼ばれるように。
2011年「塚田農場」事業部長、2011年取締役営業本部長就任。
2012年常務取締役営業本部長、2014年に30歳で取締役副社長就任。
2016年3月、経営論をまとめた初の著書『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』(幻冬舎新書刊)を出版した。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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