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きっと新しい発見がある

柘野 英樹 つげの ひでき さん Zebra Japan(株) マーケティング部長

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色彩とユーモアに富んだスカンジナビアンアイテムを多数展開する雑貨ストア「フライング タイガー コペンハーゲン」。今月登場いただいたのは、このストアのマーケティング活動の責任者である、Zebra Japan(ゼブラ ジャパン)株式会社の柘野英樹さん。フライング タイガー コペンハーゲンが注目のブランドとして躍進を続ける理由と、それを支える柘野さんの多彩なキャリア、そして一人のマーケターとして大切にしている考え方について、お話をうかがっていく。

文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮


part.1

 

■みんながハッピーになってほしい。だから買い求めやすい価格でなければならない。

 

「フライング タイガー コペンハーゲン」は1995年にデンマークのコペンハーゲンで誕生し、現在はヨーロッパを中心に世界27の国と地域で491店舗(2015年8月現在)を展開。2012年には大阪のアメリカ村にアジア初店舗をオープンし、翌年には東京・表参道に進出。現在は東京、大阪、千葉、神奈川、埼玉、兵庫、京都、福岡、愛知に全21店舗を構える。いずれの店でも、本国デンマークでデザインされた色合いに富んだ数千種類のアイテムを買い求めやすい価格で手に入れることができる。

 

「スカンジナビアンデザインには、主に二つの側面があります。まず一つ目が、ムダを削ぎ落とし、実用的に機能させること。北欧ではミニマルという考え方が、デザイン上で高く評価される傾向があります。いわゆる機能美ですよね。

もう一つが色彩。カラフルなものが多くあります。まず北欧諸国は冬が長い。そして4時には真っ暗になるなど、夜も長い。先日、デンマークのさまざまなお宅を訪問してきたのですが、皆さんまずは入居して真っ先に、壁を真っ白に塗るんです。少しの光で、室内が明るく見えるための工夫なんですね。つまり年間を通じて家の中で過ごす時間が多いので、そこをどう快適に過ごすかを、みんな考えている。部屋に置く雑貨などにカラフルなアイテムを選ぶのは、その影響も大きいと思います」

 

語るのは、フライング タイガー コペンハーゲンの日本におけるマーケティング活動を統括するマーケティング部長の柘野英樹さん。日本というマーケットの中で着実に成長を続けるフライング タイガー コペンハーゲンは、どのような層をターゲットとしているのか。

 

「まず客層のボリュームゾーンは、25歳~45歳の女性ですね。とはいえお客様の年齢層は幅広く、10代から60代ぐらいまでの方にお越しいただいています。小さなお子さんをお連れして来られる方も非常に多いですね。

ただし、そこに明確なターゲットを定めて商品構成を合わせる、という考えはありません。それよりも、いいものを誰もが手に入れることができる状況を、しっかりと作る。お買い求めしやすい価格帯で商品を展開させることが、私達にとって非常に大事なポイントです」

 

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インテリア雑貨やステーショナリーの他、バッグやフード類、そしてオリジナルの写真集を展開する他、音楽レーベルを持ってCDの販売を行うなど、扱うアイテムは非常に多岐にわたる。そんな中、商品の価格帯は最も安いもので100円、最も高いものは1万2千円。そして中心価格帯は200円~400円である。

 

「例えば写真集。いわゆるアートの写真集というと、1万円とか、いい値段しますよね。でもアートに興味がある人が誰でも1万円を出せるかというと、値段的なハードルがありますよね。でも、私達が販売している写真集は1500円程度です。低価格を売りにする雑貨店や100円ショップで売るものにしては、値段は高い。でも写真集と考えると、非常に安く設定できているはず。そこが値づけをする上で大事なポイントです。

販売する側から言えば、価格自体はいくらでも高くつけられます。そして、高くつければ利益も上がります。でもそうすると、限られた人しかそれを手に入れられなくなる。私達の考えはそうじゃない。みんながハッピーになってほしい。その思いがベースにあるので、値段は買い求めやすいものでなければならない。

 

確かに私達のお店には100円で手に入るものも、1万2千円の商品もある。でもウチは100円ショップではないので、売りは単なる安さではありません。大切にしているのは、質の高いものをどれだけお買い求めしやすい値段で提供できるか。そして、みんなが価値あるものを手にすることができる環境をどう作っていくか。

質の高いものを手に届く値段で買うことができたら、お客様の中にきっと新しい発見がある。遠い存在だと思っていたアートが近い存在になり、新しい考えが生まれる。それはとても素晴らしいことですし、万人にあっていい権利。それならば私達は、どうやって手に入れやすい価格帯で作るかを考え、努力していくべき。

 

英語でreasonableとaffordableという二つの言葉があります。
比較的似たイメージの言葉なのですが、reasonableは『値段的に安い』という印象が強い言葉。それに対してaffordableは『手に取りやすい、手が届く』というニュアンスが強い。私達のイメージは後者。価格ありきのリーズナブルリテーラーではなく、より価値のあるものをより多くの人に手に取ることができるための、機会を提供する。それが価格設定の基本的な考え方です」

 

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■どんな商品にも、お客様の数だけ用途があっていい。

 

 次に特筆すべきが、店舗環境である。什器やファニチャー、そして店舗レイアウトに関する考え方は、基本的に全世界共通である。店内はまるで迷路のようにくねくねとした形でレイアウトが組まれ、すべて一方通行。そこには明確な狙いがある。

 

「例えば買い物をする時に、額縁がほしいと思っているとします。それならば額縁コーナーを探しに行き、ほしいものが見つかったら周りに少し目線をやりつつも、基本的にはそこで買い物終了です。それでは、自分の思考回路と感覚の範疇の中でのお買い物になってしまいます。

そうではなく、入り口から出口までを一方通行にすることで、さして興味がなかったり、意識することのなかったカテゴリーの商品も目にする機会が必然的に出てきます。その時に『ああ、これは買おうとしていたこの額縁にプラスしてこんなアレンジをしたら、もっとかわいくなるかもしれない』といった、新しい発見が生まれる可能性がある。要はお店の中をブラブラと歩くだけで、どんどんインスピレーションがわいてくるわけです。そんな刺激を受け取っていただきたいと考えています」

 

店内の商品は頻繁に入れ替わる。商品開発はすべて本国デンマークで行われ、月に数百種類の新作がリリース。店頭に並ぶ。

 

「お店に入ると、まずは新作商品が目に入ります。そして次に曲がると、その新作商品に関連するアイテムや他の注力商品が飛び込んでくる。そのように、角を曲がるたびに印象の強い商品が目に入ってくるように考えています。商品が常に循環し続ける中、新しい発見を生み出すための"迷路感"の出し方。それは、スタッフが本社の人間とディスカッションしながらシミュレーションを続け、常に考え続けている部分です」

 

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Flying Tiger Copenhagen 表参道ストアの内観

 

 

そしてもう一つの特徴が、スタッフの装い。店に入ると、自社商品で個性的にドレスアップしたスタッフが出迎えてくれる。

 

「彼らは、例えば漫画家やミュージシャンを目指しながらここでアルバイトをしているような、個性豊かなメンバーがそろっています。彼らはみんな発想が豊か。お店に立った時、商品をどう魅力的に伝えるかを常に考えています。

彼らは店舗で実際に販売しているパーティグッズなどでドレスアップしているのですが、独特の商品の使い方が面白いんです。例えばトートバッグが評判なのですが、それをエプロンのように腰に巻いて使っている子がいたりする。確かにそれはトートバッグといえばそうだけど、エプロンでもある。そして、そういう使い方があるということを、彼らは自分で考えて、自由に表現している。

私達は『この商品はこの使い方をして下さい』『この商品はこの用途だけのものです』ということをいっさい規定しません。どんな商品にも、お客様の数だけ用途があっていい。その『僕だったら、私だったらこう使う』というアンバサダーに、スタッフが自らなっているわけです。

 

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表参道ストアのグランドオープニング風景(2013年10月2日)

 

私達は日本の本社をサポートセンターと呼んでいます。それはブランドの価値観の中に『あくまでもお客様が王様である』という考え方があるから。お客様にインスピレーションを提供する触媒として、スタッフを含めたお店がある。お客様がハッピーになるために、最前線にいる店舗のスタッフはどうすれば最高の体験を提供できるか。そして、そのために私達は何を準備できるか。そんな考え方に立っています。私達のお店においては、お客様が主役。お客様自身にいろいろな楽しみ方をしていただくために、どうアシストするか。そこが大切なポイントです」

 

第2回では引き続き、柘野さんが考えるフライング タイガー コペンハーゲンのポジショニングと販売戦略、そして雑貨店の枠を超えた新たな取り組みについて、お話をうかがっていく。

 

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プロフィール
柘野 英樹

柘野 英樹 つげの ひでき

Zebra Japan(株) マーケティング部長

1973年5月3日兵庫県宝塚市出身。大学卒業後、1996年に東北新社に入社し、CM制作の進行管理を担当した後、ADKインターナショナルに移り営業部で活躍。ADKインターナショナル社長賞などを受賞。’04年にアディダスジャパンへ。’07年より直営店の販売促進などを手がけ、その後はスターバックス コーヒー ジャパンにてドリップコーヒーのマーケティング戦略立案と実行に従事。スウォッチ グループ ジャパンのマーケティング部マネージャーを経て’14年、Zebra Japan株式会社に入社。フライング タイガー コペンハーゲンの日本国内におけるすべてのマーケティングプロジェクトの責任者となる。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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