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わざわざ靴を磨いてもらいに出かける。そんな時代を作りたい

長谷川 裕也 はせがわ ゆうや さん (株)BOOT BLACK JAPAN 代表取締役

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今回登場いただいたのは、靴磨き職人であり、株式会社BOOT BLACK JAPAN 代表取締役の長谷川裕也さん。長谷川さんが営む「Brift H(ブリフトアッシュ)」は、カウンター越しに会話をしながら、スーツ姿の職人達が顧客の靴を磨き上げる、新しいスタイルの靴磨き店だ。長谷川さんはどのようなキャリアを経て、どのような考えのもと、この店を話題の存在にしていったのか。

文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮


Part.1

 

■すべて既存の真逆をする。それが戦略。

 

 住所は南青山。骨董通り沿いの決して大きくはないビルの2Fの一室。レザーで造られたカウンターの後ろで、スタイリッシュなスーツ姿の職人が、お客さんと向き合って靴を磨く。「Brift H(ブリフトアッシュ)」はこれまでに例のない、カウンタースタイルの靴磨き店だ。

 

「店を構える時、住所は絶対に青山にしようと決めていました。『えっ!? 靴磨き店が南青山!?』と思わせたい。まずそれが、この場所を選んだ狙いです」

 

語るのは、ブリフトアッシュを営む株式会社BOOT BLACK JAPANの代表・長谷川裕也さんである。

 

「靴磨き店は主に空港やホテル、あとは路上にありますよね。基本的に"ついで"で利用する人が多いので、便のいい場所にあるものです。でも、僕はその常識を変えたい。これからは"わざわざ靴を磨いてもらいに出かける"時代にしなくてはいけない、と思っています。だから、決して駅から近くはないこの立地の、路面からは見えない2階の部屋を選びました。

もちろん、やるからには最高の靴磨きを提供します。そうなると、よくあるスタイルではダメ。靴の中もきれいにして、靴底にはソールオイルを塗るなど、手のかかるケアをしたいので、そのためには、靴を脱いでいただかなくてはなりません。履いたままではできないサービスをするので、例えば髪の毛を切ったり爪の手入れをしてもらう時のように、時間を作って来ていただく必要があるのです。そうですね。やっていることは靴磨きですが、サービスとしては、ネイルサロンや美容室に近いのかもしれません

 

長谷川さんにとっての大きなテーマ。それが「靴磨き職人の地位の向上」である。

 

「いわゆる靴磨き店というと、年配のおじいさんがエプロンをして…いや、エプロンなんてまだいい方ですね。汚れたボロボロの服を着て、イスに座っているお客さんの足元で、履いている靴をゴシゴシと磨く。そんなイメージですよね。

僕が考えたのは、すべてそのイメージの逆をするということでした。スタイリッシュなスーツ姿の若者の職人が、お客さんと近い高さの目線でカウンターに立って、カッコよく磨く。僕が作りたかったのは、そういうお店です。

まだまだ、靴磨き職人に対する偏見はあります。僕もかつては路上でやっていたのですが、邪魔者扱いされて意味もなく怒鳴られたり、『その仕事、食えるの?』なんて聞かれたことも多々ありました。僕は靴磨きという仕事の価値を高め、靴磨き職人を、いつかは小学生が将来なりたい職業として挙げるような存在にしたい。それがモチベーションです」

 

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■顧客とのコミュニケーションから、多くの情報を引き出す。
 

 ブリフトアッシュのメイン顧客は、30代以上のアッパークラスの男性。ファッションとして靴が好きで、身だしなみへの意識が高い。そんな人達だ。では長谷川さんは、いかにして彼らを、決して利便性がいいわけではない立地の小さな一室に呼び寄せ、リピーターへと変えていくのか。

 

リピートしていただくためのテクニックや秘訣のようなものは、正直、特にありません。マジメに接客する。それだけです(笑)。もう本当に、スタッフ一人一人がちゃんと接客する。そして信頼関係を築き、固定客となっていただく。それだけです。そうですね…行きつけのバーを作るようなイメージでしょうか。

ウチの場合、例えばメンバーズカードを作って、会員さんに何か特典を設けるとか、そういったことはまったくしていません。僕らがしているのは、職人仕事。下手に器用なことをすると、どこかうさん臭くなる。"職人らしさ"をしっかりと残さねばならない、と思っているのです。

ただし、お客様の情報はしっかり管理しています。顔と名前を覚えるのは当然で、どんな靴を持っているか、その靴はいつ、どこで購入したもので、何年ぐらい履いているのか。そして、僕らが何月何日にどんなことをしたのか。固定客の方であれば、汚れ方や傷み方の傾向や特徴があるので、それらもしっかりと把握します。病院と同じで、最初に来ていただいた時にデータを登録し、靴のカルテを作っています

 

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この仕事の利点が、一定の時間、カウンターで向かい合って顧客と接すること。靴磨き中の顧客との会話。そこに、リピートしてもらうための一つのポイントがあるという。

 

僕らは接客しながら、どのように靴をきれいにしていくのかを細かく紹介していきます。そしてその中に、次に来るきっかけ作りの会話を入れていく。例えば『今持っている靴を、どんな風に磨いているのですか?』『他にはどんな靴を持っているのですか?』『履かなくなってしまった靴はありますか?』といった質問をしながら、お客様の靴すべてに対してアドバイスを送りつつ、情報を得ることを意識しています。

この職業のいいところは、靴を磨いている間に、プレゼンをする時間がたくさんあること。コミュニケーションを取る時間が十分にあるので、会話から、さまざまな情報を引き出すことができるのです。ブリフトアッシュの基本的な価格設定は1足2500円で、これは決して、高くはありません。だからこそ、きちんとした接客をしてリピートにつなげることは非常に大切だと認識しています」

 

現在、着実な成長を続けるブリフトアッシュ。
靴磨きという職人仕事の世界に新たな風を吹き込んだ長谷川さんは、どのような紆余曲折を経て今に至っているのか。
Part.2では、20歳の時に路上からスタートした、彼のキャリアについて迫っていく。

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プロフィール
長谷川 裕也

長谷川 裕也 はせがわ ゆうや

(株)BOOT BLACK JAPAN 代表取締役

1984年千葉県出身。営業マンを経て2004年、20歳の時に、日銭稼ぎ丸の内の路上で靴磨きを始める。
1年後に品川駅前の路上へと移って徐々に顧客を増やし、2008年、南青山にBrift H(ブリフトアッシュ)を開店。
新たな靴磨きのスタイルを模索し続ける。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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