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クライアントが社会でできることは何か

西井 敏恭 にしい としやす さん (株)warmth / オイシックス(株) 代表取締役 / CMO

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Part.4

 

■インターネットは、渋谷のスクランブル交差点付近のようなもの。

 

 2013年まで務めていたドクターシーラボと、現在CMOを務めるオイシックス。手がけているのは同じEコマースであっても、これまでの化粧品と比べ、農作物には季節要因や収穫高など、さまざまな要素が絡んでくる。西井さんはそれを踏まえた上で、オイシックスのマーケティング戦略上のKPI(重要業績評価指標 目標の達成度合いを計る定量的な指標)を、どのように捉えているのだろう。

 

「トマトは一つ売って100円も利益が出ないですが、化粧品は一つで数千円の利益が上がることもあります。単価がまったく違うものですが、いずれのマーケティングも、利益の上がる仕組みを作ることです。ゆえにKPIの作り方自体は、あまり変わらない。要はアクイジション(新規顧客獲得)のコストがあり、それに対してどこまでLTV(顧客生涯価値)を高めることができるか、という考えは、共通のもの。確かに化粧品メーカーとネットスーパーでは、商品構成に明らかな違いがあります。でもお客様がほしくなる商品、買いたくなるサービスを提供する上で、KPIの捉え方に差はほとんどありません

 

オイシックスは「安心・おいしい・リーズナブル」をモットーに、顔の見える農家と契約。安全でおいしい農産物を宅配するサービス。ドクターシーラボがメーカーであるのに対し、オイシックスとはつまり、Eコマースのプラットフォームである。オイシックスのEコマースを運営し、ブランディングをしていくにあたり、西井さんが重視しているのはどんなことなのか。

 

「Eコマースはどうあればいいか。それを考える時に最も大事なのは、その会社の強みとアセット=資産は何なのか、ということです。例えばオイシックスは生産者の方と直接つながっていたり、独自の安全基準を設けて、直接生産者の農場を調査させていただき、商品選定をおこなっています。お子様がいたり、家族に安全なものを食べてもらいたいと思っているお客さまはたくさんいらっしゃって、その方たちは、スーパーでは生産地や商品の原材料をチェックしながらお買い物をしていますが、オイシックスでのお買い物の時はその手間が省けてとても便利。安心してお買い物ができるようになっているのです。

 

例え他のスーパーで同じ商品を手に入れることができるとしても『こういう基準でセレクトされたこういうモノがそろっていますよ』というオリジナルの切り口がはっきりと見えれば、少なくとも、大手ネットモールなどの膨大な数の商品の中から必要なものを選ばなくてはいけない手間からは解放される。

 

インターネットは、歩いて1分ぐらいの場所にものすごい数のお店が集中している、渋谷のスクランブル交差点付近のような状態。そしてその中には、どんなものでも売っている大きなECサイトはすでに存在している。そこで大事なのは、何でもありじゃないECサイトをいかに構築するか。そしてお客様がサイトを見た時に、どんな基準でアイテムがセレクトされているのか、そしてそのショップの強みが何なのかが、明確に伝わることが大事です。そのためには自らの強みをしっかりと分析し、それをどうやってPRするのかを考えねばなりません。

 

化粧品メーカーも、「肌にやさしい化粧品や、最新技術を使っている」などはどこでも言っていることで、そのブランドがどんなコンセプトで商品を開発しているか、誰のためのブランドなのか、今までの背景も含めて伝えていくことが大事だと思います。その結果、どんな機能があって、どんなプロモーションを実施して、ネット以外のところではどんなサービスが必要か、を考えていきます。

 

アセット=資産は何かを考え、オリジナルの切り口を突き詰めていく、という点で、やることはメーカーだろうとプラットフォームだろうと変わらない、と思っています」

 

オイシックス株式会社360
オイシックス本店Webサイト

 

 

 

■楽しまないと、お客様にいいサービスを提供できない。

 

 'また、CMOを務めるオイシックスの他にも、西井さんは自らの会社warmthにて多様なクライアントを抱えている。

 

「Eコマースにおいては、サイトのアクセス解析、サイト内でのお客様の動き、過去の購買データなどのデータをすべていただき、広告予算なども含めて考えていきます。そしてもちろんデータも大切ですが、そこだけではありません。その会社のEコマースのビジネスモデルが、お客様に対して何をできるか。そこまでを一緒に考えていく。それが僕の仕事だと思っています」

 

西井さんの情報収集法はさまざまだが、本は年間100冊近く読むという。そして、そこで得たものを実践する。

 

「ピンキリですね。価格戦略に関する本もリスティング広告の本も経営に関する本も、何でも読みます。本から得られる情報はすごく大事なのは、自分自身が本を出しているからなおさら思います。例えば僕は、2年間の旅行の話を1冊の本にまとめました。2年間の経験が、早ければ数時間で吸収できる。つまり、すごく効率がいい。

 

でも、ただ読めばいいわけではありません。旅行もそうで、行かないとわからないことがたくさんある。読んだだけではわからないので、実践することも大事だと思います。人から聞いた噂話を鵜呑みにして『あのサービスはダメだよ』と言ったとしても、その人はそれを使い切れていなかったのかもしれない。自分で実践することが大事です。

 

僕は結構、おたく気質なんです(笑)。何でも深く突き詰めるタイプなので、今でもオイシックスのfacebook広告の仕様もすべてチェックしていますし、自分でアカウントを開いて遊びながらFacebook広告をやっていたりする。現場から上がってきた話についても『こうしよう』ということを、数字を提案できます。何でも自分で実践したいんですよ。何か新しい動きが出てきた時、それがどう使えるかを考えるには、何でも突き詰めて、やり切ることが必要だと思います」

 

西井さんが考える、今という時代にマーケターとして大切なこと。それは結局「楽しむ」ことだという。

 

「ウェブのデータ解析の話になった時に『ああ、俺はそれ、わからないんだ』と諦められてしまうと、元も子もなくなってしまいます。いや、誰でも最初はわからないものなんですよ。僕もそうでしたから。

 

先日、あるクライアントの社長さんと話していたのですが、その方が『Eコマースは楽しい。西井さんの話を聞いていると、どんどん面白い話が出てくるから』と言って下さりました。僕もその会社の商品がよく売れるとすごく気持ちがいいし、仕事できることが楽しくなります。

 

かつてはテレビCMを打っても、はっきりとした効果はわからずしまいでした。でも今はネット広告であれば、結果はABテストではっきりと出てきます。そこから、次にどう直せばいいのかが、明確にわかる。僕はそれを楽しいことだと思うし、楽しいからもっと勉強したくなる。そういうものではないでしょうか。

 

だから僕自身、仕事を仕事と考えていないところがある。土日でもクライアントのサイトを見て『自分だったらどうするか』なんてことを考えています。結局は、楽しめないとダメ。しんどく感じていたら、お客様にいいサービスを提供することはできませんから

 

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現在のクライアントは、大手もあればスタートしたばかりの企業もある。マーケティングとは何なのか、というレクチャーから取り組むケースもあれば、次世代に向けてワンランク上のトライアルをしたい、という相談もあるという。今までに得たスキルを新たなクライアントで生かし、新たなクライアントと接した経験を、既存のクライアントとの関係に生かす。そして、その中で必死で考えたことが上手くハマった時の楽しさが、自分を動かす新たな原動力となる。
西井さんは今、そんなサイクルにいる。

 

(終わり)

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プロフィール
西井 敏恭

西井 敏恭 にしい としやす

(株)warmth / オイシックス(株) 代表取締役 / CMO

1975年生まれ。福井県出身。
金沢大大学院を卒業後バックパッカーとなり、2年半をかけて世界を1周。自らのウェブサイトにてアジア、南米、アフリカ各地で旅行記を更新。それが口コミで広がり話題となる。
帰国後は2003年にEコマース企業に入社してウェブマーケティングに取り組み、モバイルコンテンツ会社を経て’07年にドクターシーラボ入社。Eコマースグループグループ長などを務め、’13年末に退職。
再び世界1周の旅を経て昨年春、自ら株式会社warmthを立ち上げるとともに、オイシックス株式会社のCMOに就任した。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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