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「木刀でドスンと殴る」スタイルを確立し、人の行動を生み出す

小西 利行 こにし としゆき さん POOL inc. 代表取締役
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Part.2

 

■シンプルな「行動を誘発する言葉」。それこそがキャッチコピー。

 

 博報堂入社当時はマーケター志望。しかし"クリエイティブ12人中13番目"という評価で、幸か不幸かコピーライターになった小西さん。入社2年目で大手クライアントの商品のネーミングに携わることになる。

 

「もう、まったく書けないわけですよ。僕としては『俺、もともとコピーライター志望じゃないから。素養がない?知らねーよ』と開き直っていましたね(笑)。その後はチームを移り、初期型のプレイステーションのCMプランニングをやりました。今度は『俺、コピーライターなんだけど…』と思いながら(笑)」

 

そんな風に、どこかくすぶっていた小西さんに転機が訪れる。大きなエポックとなったのが、入社4年目に手がけた日産セレナのキャンペーン。小西さんが書いたコピー『モノより思い出』が、大きな反響を呼んだのだ。

 

「当時、ミニバンのセールスでセレナは4位でした。2位がホンダのステップワゴン。コピーは佐藤可士和さんが手がけた『子供と一緒にどこ行こう』というものでした。すごくキャッチーかつ本質的で、ほぼすべてを言われてしまっていた。

そこから考えてみたんです。そして『子供と一緒に~』が、『今から行動する人のための言葉』なら、こっちは『行動を起こす前に悩んでいる人に向けて呼びかけ、きっかけを作る言葉』にしよう、と決めました。

じゃあ、運転するお父さんが行動を起こすには、どうするか。思い出を作るとは、本来とてもステキなことです。でも、そこで『思い出を作ろう!』と書いても、人の心には絶対に響かない。それならば、お父さん達の心の中にある一番嫌な部分を突いてみよう、と考えました

 

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『モノより思い出』とは『お金で解決するよりも、家族を外へ連れて出かけて思い出を作ろう』という意味。つまり消費概念は『モノ』ではなく『時』になる。

 

モノを買うより思い出を作った方がいいですよ、というのは、人間の根源の話。だから、このコンセプトが腐ることがない。当時はバブルが崩壊して、忙しい割にはお金が入ってこず、休日にやることもないような時代。びっくりするぐらい忙しくて、なかなか早い時間には家に帰れない。だからお金のかかるレクリエーションにはなかなか行けず、結果、車も売れない。

 

そんな時代のお父さん達に『家族にモノをちょこっと買ってきて、ごまかしていませんか?』と問いかけた。つまりお父さんからすれば、ものすごく嫌なCMなワケです。実際、日産にお父さんから『俺も思い出が作りたいんだ、でも時間がないからできないんだ。あの嫌なCMの放映をやめて下さい。心が痛くなるから』というクレームの電話が入ったそうです。

このコピーは日産の方の英断で決まったのですが、当時の博報堂社内では、企画もコピーも、すごくいい、という意見と、まったくダメ、という意見に分かれていました。コピーに至っては『そんな“マーケティングみたいな”言葉はダメ』と言われましたね(笑)。当時はもっと詩的で抒情的な、長くてキュンとくるようなコピーが流行っていた。でも『モノより思い出』はまったく違う。『AじゃなくてB』みたいに、ロジックしか語っていないワケですから。

 

それもあって、社内の一部では最悪のキャンペーンとすら言われ、一度たりともほめられたことはなかった。僕自身すごく落ち込んでいたのですが、当時まだ博報堂にいらした谷山雅計さんや前田知巳さんといったコピーライターの大御所の方々が『画期的でいいよね』と言って下さったこと。それだけが心の支えでした。

 

シンプルで行動を誘発する言葉。僕はそれこそがキャッチコピーだと思うのですが、谷山さんや前田さんは、そういうコピーが今後くる、と感じていらしたのでしょう。ただし、お二人が作られるコピーは洒脱で面白い。僕のこのコピーは素朴。谷山さんや前田さんのコピーが切れ味鋭い刀でスパンと切ったシャープでエッジの利いた仕上がりだとすれば、僕のは木刀で殴ったようなラフな仕上がり(笑)。嫌いな人は、それが嫌だったんでしょうね。

 

コピーライティングに切れ味はもちろん重要ですが、“木刀で殴った感”も大事。わかりやすくて、心にズドンとくることが一番だと、僕は今も思っています」

 

モノから時。そして、時からコトへ。この後、消費の価値観は劇的に変貌していく。今思えば当時は、バブル経済の影響でモノを追い求めていた時代からの転換期だったのだろう。

 

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■気づいていなかった方向性を示唆する言葉を生み出す。

 

 小西さんが書いたこのコピーは6年半にわたり、多くの人に親しまれた。

 

「一部では車というよりも日産の企業広告的にとらえられていたり、決して評判よくはありませんでした。でも『CMを見て感動したので、いい車じゃないかと思って…』と言ってお店に来たお客さんがいらっしゃったと聞き、勇気づけられましたね。人の行動を作れたことが、僕はすごくうれしかった。

 

また、このコピーは基本的に親から子に向けたイメージで書いたのですが、学生さんが『お金をかけてモノを買うよりも思い出を作りに行った方がいいから、旅行に行こう』というように、新たな解釈をしてくれて、当時の行動指針化した面もあった。

 

今思うとこれが、世の中が動いた、と感じられた最初の仕事でした。『モノより思い出』というコピーによって、自分なりの手法を確立した、とまでは思いませんが、自分のスタイルが見えた気はしましたね

 

 小西さんにとっての最高のコピーライティングとは『世の中に行動を生む言葉を書くこと』だ。

 

「僕はいろいろな方からよく、コピーライターっぽくない、と言われます。コピーライティングにおいて、抒情的な心のひだを書く力量が問われるのは正しいと思います。でも、それだけではない。世の中でまだぜんぜん伝わっていないことを『こう言ってあげたらもっとわかりやすくなる』という表現で伝えることも、とても大事な仕事です。

 

例えば、今まで100字を使って表現していたことを5~6字で伝えられたら、世の中はきっと動きますよね。かつて、女性が一人でご飯を食べに行くのは寂しいことでした。それが『おひとりさま』という言葉が出てきたら、徐々に女性達の行動が変わっていった。つまり、行動を作るのは言葉なんです。

もちろん商品を売っていくための、マーケティングとしてのプロセスはあります。それを踏まえた上で『今まで気づいていなかったけれど、こっちの方がいいな』と、新たな方向性を示唆できる言葉。それは絶対的に、仕事や物事の本質の中に潜んでいる。僕は常に、そこを考えるようにしています」

 

 13年間の博報堂での経験により、自分なりのコピーライターのあり方を見つけた小西さんは、2006年に独立。POOL inc.を立ち上げたことで、さらに仕事の幅を広げていく。
次回は、小西さんがPOOL inc.で手がけたプロジェクトについて、話を聞いていく。

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プロフィール
小西 利行

小西 利行 こにし としゆき

POOL inc. 代表取締役

1968年京都府出身。大阪大卒業後、1993年博報堂入社。
2006年に現在のPOOL inc.を設立。
CM制作から商品開発、ブランド開発、企業コンサルティング、都市開発までを手がける。これまでに手がけた主な仕事は、日産自動車『モノより思い出』、サントリー『伊右衛門』『ザ・プレミアムモルツ』、『プレイステーション』など。CLIO、ニューヨークADC、ONE SHOW、TCC賞、ACC賞など国内外で受賞歴多数。
クリエイティブディレクションを手がけた越谷市の大型ショッピングセンター「イオンレイクタウン」で、日本初のサステナブルデザインアワードを受賞。東京天王洲などの都市開発も手がける。ENJIN 01 文化戦略会議メンバー。劇作家/絵本作家でもある。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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