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戦略を支える鍵は、スタッフの商品知識

広畑 雅彦 ひろはた まさひこ さん (株)ディスクユニオン 代表取締役

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Part.3

 

■「お客さんに鍛えてもらう。それがウチのOJTです」

 

  コアな客層にフォーカスして展開される、ディスクユニオンの"ディープ"オーシャン戦略。その生命線となるのが商品力だ。そしてそれを下支えするのが、商品と顧客をつなぐスタッフの商品知識である。

 

「スタッフはみんなとにかく音楽好き。例えば中学や高校の時にキッカケあって音楽を聞き始め、そこから音楽命!とどっぷりとハマっちゃった。そんなイメージです。彼らの音楽に対する熱こそが、僕らの大切な財産です

スタッフに新卒社員はほとんどいなく、9割以上がアルバイトから社員になった人か、もしくは他社からの転職で入社しています。ウチはなるべく、ジャズが好きならジャズ、ヘヴィメタで入ったらヘヴィメタと、極力、専門分野でずっとやってもらいます。彼らが他のショップよりもウチを選ぶメリットは、自分の好きなことがずっとできる点だと思います

 

 スタッフの育成は、ほぼOJT方式。スタッフは現場でコアなお客さまにさまざまなことを教わり、鍛え上げられていく。

 

「例えばアルバイトで入り、そこへ常連のお客様がやって来る。常連さんは『こいつ誰だ?』と思って、ジャブをかましてくるわけです(笑)。マニアの方は"教えたがり"が多いので、そこから始まっていろいろなことを学び、徐々に信頼関係を築いていくわけです。そこで知ったかぶりをせず、素直に『知りません。教えて下さい』というスタンスで学ぶことが大事ですし、そうやって成長していくのだと思います。私自身、入社する前にディスクユニオンのジャズ館など数店で働いていた経験があるので、その大切さはよくわかります」

 

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スタッフの現在の平均年齢は40歳ほどと比較的高いが、顧客の平均年齢も徐々に上がりつつあり、さほど気にすることではないという。そしてディスクユニオンでは最近、スタッフの60歳定年後の嘱託再雇用の場合の年齢の上限を撤廃した。希望すれば、何歳であっても働き続けることができる。また社員の音楽に関する副業は許可している。

「音楽に関係してさえいれば、バンドをやったり雑誌のコラムを書いたりDJをしたりと、何をしてもOK。詳しくは把握していませんがスタジオミュージシャンもいるだろうし、プロモーションを手がけたり、ハコを借りてアーティストをブッキングしているスタッフもいるかもしれません。

 

それらも含めて重視しているのが、率先して仕事するスタッフを育てること。副業を許していることに加え、ウチはアルバイトスタッフであっても、例えば一つのレーベルの運営を任せたり、欧米に商品の買付に行ったりと、重要な仕事をどんどんしてもらいます。そうやって、スタッフが一歩踏み出すための後押しをしてあげて、育てていくことが大事です。正直、コアな音楽好きである反面、ビジネスマインドがあるスタッフが少ないのも確か。だから、彼らの専門知識を生かしつつ、どのようにビジネスさせていくかを考えること。それが、私の役目だと思っています」

 

 

■買う場がなくなった「昭和歌謡」。でも今、流れは来ている。

 

 ディープオーシャン戦略においての大きな核が、特化型専門店の展開。ジャズ、クラブミュージック、パンク、ヘヴィメタル…といったジャンルによる専門店を作ることで、顧客のより細分化された趣向に対応していく。

 

「マニアの方は、そのジャンルの情報だけを求めているケースがほとんど。好きな人が集って情報交換することができるし、中古品を扱っていると、いつ掘り出し物が出るかわからないので、毎日のように通ってくる人もいらっしゃいます。新品ならネットでも買えますが、中古はいつのタイミングで入るかまったくわからないので、足繁く通う楽しみがあります。

また、スタッフ個々の専門知識を生かすため各ジャンルのスペシャリストとしてキャリアを積んでもらうのが基本方針ですが、一方で店舗運営やMDとして必要な数値に強くなってもらわなければ利益を出すことが出来ませんし、その利益からまた良質な商品を仕入れたり、制作することも出来ません。そのバランスを取りながら、それぞれのスタッフが自分の好きな分野で仕事出来るのがベストと考えて各音楽ジャンルの専門店を増やしてきましたし、それがお客様から支持をいただいていることにもつながっていると思います。

 

 そして今、構想中のショップの一つが、昭和歌謡の専門店。広畑さんがこのジャンルに目を付けた背景には、何があるのだろう。

 

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「例えば、ロックというジャンル。これは最初は、店舗の中の一つのコーナーに過ぎませんでした。それが次第にパンク、ヘビメタ、プログレといった形で細分化され、さらにその一つ一つが大きくなっていったことで、単独店舗ができていきました。

そうやって、時代の流れの中で専門店化していったものがあるのに対して、今はまだそこまでの大きくないジャンルであっても、ウチが店を出して刺激を生むことでマーケットを顕在化できるかもしれない、という考えで単独店舗を作るケースもあります。昭和歌謡の専門店は、そういった考えでこれから生まれようとしているものです。

 

 昭和歌謡は、特に市場が大きいわけでもなく、過去に発売された商品もしくはその復刻商品があるだけの分野ですが、一定のニーズはあります。中高年層は昭和歌謡を今でも好きでよく聞いていますし、ここ数年ゴールデンの時間帯でも昭和歌謡のTV番組は以前より増えてきています。

しかしその反面、昭和歌謡のCD・レコードを販売しているお店は減っていて、買いたくてもリアル店舗では買えない。つまり、昭和歌謡を買う場がなくなっているんですね。それならば、ディスクユニオン的な解釈で昭和歌謡の専門店を出したらどうなるのかな、と考えたわけです。昭和歌謡もすごくヒットした曲ばかりじゃなく、マニアックな曲もすごくたくさんある。そこをウチがやることになれば、昔の"街のレコード店"ではない、多少なりともウチらしい昭和歌謡のお店が作れるだろう、と思ったわけです」

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プロフィール
広畑 雅彦

広畑 雅彦 ひろはた まさひこ

(株)ディスクユニオン 代表取締役

1965年生まれ。
’87年にソニー入社。間もなく、第二次ビデオ戦争まっただ中に8ミリビデオの国内営業を手がけ、その後は系列店の新業態開発や、プレイステーションの立ち上げ、ポケモンセンターのプロデュースなどに携わるなど、キャリアの大半を新規事業開拓に費やす。
’95年にディスクユニオン入社。
2002年に代表取締役社長就任。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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