音楽配信はダウンロード(個別課金)からストリーミング(サブスクリプション)へ

タケナカ テイイチ [記事一覧]

タケナカオフィス(TOJ)代表、 デジタルメディアコンテンツストラテジスト。コンテンツテクノロジービジネス開発プロデューサー。ジャズピアニスト、作家。学生時代から音楽活動を開始し、卒業後音楽学校講師を務める傍ら、演奏・制作活動を続ける。その後、渡米し、スタンフォード 大学CCRMA(コンピュータ音楽音響研究センター)で客員研究員。帰国後、ヤマハ、BMG、MTVジャパン、アットネットホーム、コロムビアと音楽コンテンツ・メディアIT企業で制作、イベントプロデュース、A&R、事業開発、そして経営ボードとして企業マネジメントを行う。 アナログからデジタルへ、フィジカルからデジタルへ音楽産業・構造が移行する中で、常に革新とレガシービジネスのバリューマッチング、新規事業開発を行う。海外ITエンタメ事業ローンチ、市場リサーチ・コンサル、マーケティングプロデュースを行う一方で、新規ビジネスグロース・プロデュースを手掛ける。 2016年3月からネット音楽ラジオ局OTTAVA取締役CEOに就任。9月からニューテクノロジービジネス開発フェロー。

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Vol.3
「オンガクの明るい未来;マーケティングは音楽を救う?」

 

iPhoneやアンドロイド携帯が、日本でもスマホ市場を席捲する中、NECやパナソニックなど3G携帯を支えてきた大手メーカーがスマホ市場から縮小撤退を表明しているが、携帯電話市場そのものは、その流通の特殊性も含めて、巨大なマーケティングフィールドに成長した。

月々5000円超を2年間払い続けてくれるスマホユーザーが、3Gから乗換、スマホを続けることで通信キャリアの利益は最大化する。

このスマホの普及は音楽マーケティングからも、お茶の間を中心としたコミュニケーションからユーザーを切り離し、個から外部のコミュニティへつながるコミュニケーションへ変化させた。

さらにスマホのSNSは世界ともつながっている。日本の場合幸い?にも言語的な問題で例えばフェイスブック1800万人が全て世界とコミュニケーションしているわけではない。キャリアの考えるグローバル化は日本のユーザーを世界へ繋げることではなく、日本とは別に世界で稼ぐこと。ここに韓国や台湾、インドなどと本質的な差がある。

ガラケーで着うたという独自の市場を成功させたのはiモードやEZwebといったドコモやau、ソフトバンクの公式プラットフォームであった。現在スマホではiOSやアンドロイドがキャリアを横断し、ユーザーはアプリを通じてオンガクを楽しむようになった。

キャリア決済をベースに、公式プラットフォームでコンテンツ収益を最大化してきたキャリアは、あらたに定額でアプリ使い放題、マルチデバイス割引というサービスを続々と打ち出してきた、それが“dマーケット”であり、“スマートパス”である。キャリアはもう一度ユーザーを公式サービスに回帰させようとした。この狭間で着うたはユーザーから“おいてけぼりを喰らう。

 

スマホへの移行が進む中、携帯ユーザーはホントに音楽を聴かなくなったのだろうか?

その質問に答える前に、質問を変えて

ユーザーは音楽を買わなくなったのか?と問われればそれは明確にYESだ。

着うた全盛の頃から違法ダウンロードは市場の2倍とも3倍とも言われていたが、さすがに違法サイトからダウンロードするユーザーは減ってきた。しかし一方で無料動画配信からの聴取は確実に増え続け、さらに、そこからダウンロードできるアプリは増えて続けている。もともと音楽には試聴という商慣習もあったが、フルコーラスで聴取でき、しかもそれが保存できるとすればダウンロード課金自体のモデルが崩れてしまう。

そこに登場したクラウドサービスはパラドックスを提示した。

違法であれ有料であれ、せっせと自分のデバイスにダウンロードする意味を失くしてしまった。デバイス毎にコンテンツを管理する煩わしさは、着うたでは逆に新機種買換えに合わせたコンテンツを買いなおすという需要も生んだが、これは消費者からすると何回も同じ曲にデバイス毎に金を払うのは理不尽に思えるだろうし、何千万曲という楽曲がいつでも好きな時に聞けるのであれば月額の方が合理的と考えるのは自然である。

さらに地上波のTV、ラジオと違ってユーザーに聞かれた楽曲ログは確実に履歴が残るのでコンテンツホルダーに取っても収益をもれなく確保できる。

現状ではまだ欧米でスタンダードになっているSPOTIFYDEEZER、PANDRAも日本ではまだサービスを行っていないので音楽ストリーミング、サブスクリプション(定期購読)モデルについて日本市場で語るには時機尚早であることは否めない。しかしながら、地上波ラジオのサイマル(同時)放送サービスのradiko[民放FM/AM]やNHKのらじる★らじるはすでに1000万以上のユーザーを確保しているし、ユーザーが好きな楽曲をカスタマイズできるパーソナライズラジオサービスもいくつかサービスを開始しつつある。

しかしこのサブスクリプション問題、実はNAPSTER JAPANが日本でもサービスを開始した2006年、そしてスマホ普及に伴い着うた市場が急激に縮小した2009年にも業界で議論を拡げていた。この3年ごとに議論されている中味は実はあまり変わっていない。

それは、“既存サービスを喰わないか?”ということである。

 

音楽消費行動の変化;ランキング消費から無料試聴へ

 

音楽のフォロワー買い(流行りものを買う)の典型にランキング消費があるが、ネット無料動画サイトでは殆どの楽曲がアクセスでき、さらにはアーリーアダプターにとっての先物買いも無料動画サイトで事足りてしまうようになってしまった。

ランキングは結果としては統計だが、実は色々な要素を組み合わせれば演出することも出来る。ヒットチャート1位を謳う事で店頭を賑やかにしてランキング消費をプッシュできるのは当然だが最近はヒットチャート上位を作りだし、自ら囲い込むという戦略も目立つ。まあ音楽に限らずゼネラルストアと専門店のようなもので専門店にいって世の中で一番うれているものが買えるとは限らないのでこれも合理的と言えなくはないが、その意味ではフィジカルはヒットチャート楽曲は全て購入可能である。

ロングテールを書いたクリス・アンダーソンは最近ヘッドが最重要であることを公言しテール部分を収益化するネットの限界に触れた。ランキング消費が堅調な日本ではその傾向はますます顕著だがクラウドストリーミングの流れは実はヒット曲よりもリスナーの琴線に響く曲をどんどん聞かせてくれるかも知れない。

(続く)

 

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