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一喜一憂なんておこがましい

齊藤 能史 さいとう よしふみ さん 松徳硝子(株) 取締役/クリエイティブディレクター

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■「見て覚えろ」が基本ながらも、フォローはしないと…

 

松徳硝子の工場にある大きなガス窯は、24時間365日、1300~1500℃に保たれ、火が消えることはない。一度火を止めると、同じ状態に戻すまでは2週間ほどかかってしまうという。そして窯には8つの口が開いており、職人達はそこに埋め込まれた坩堝からドロドロに溶けたガラスを棹で取り、作業を行う。

 職人が製品を作るのは、朝8時~夕方5時までのみと決まっている。夕方5時から翌朝までは、翌日使うガラスを溶かすために、窯炊き職人と交代。原材料となる珪砂、ソーダ灰、石灰などを混ぜ、「タネ」と呼ばれる溶解ガラスを作る。

 

「まず、素材となるガラスをいかにきれいに溶かすか。そこが大事です。いい製品を作るには、常にいい素材がなくてはいけません。いわゆる"こだわりのラーメン店"みたいな所で、ごくたまに『スープが上手く作れなかったから、今日は店を開けません』みたいなのありますよね。僕は、そういう考えはアマチュアだと思います。プロなら、どんな状況でも最高のクオリティを目指すもの。それができないなら、プロとは言えない気がします」

 

残業できない状況の中、いかにいいものを数作るか。そこが松徳硝子の生命線だ。職人達はタネを棹で巻き取り、棹を回しながらガラスに息を吹き込み、下玉を仕上げる。これが「玉取り」と呼ばれる作業。玉が均一の厚みになるよう丁寧に吹かねばならないため、大切な基礎となる仕事である。

 

「業界では『玉取り3年』なんていいますが…。通常は駆け出しの職人が担当することが多いですが、ウチは違います。職人が作業できる時間が朝8時~夕方5時で限られているので、若い職人が練習するヒマはありません。『コイツはイケる』となったら、すぐラインに入れるんです。昔気質の『職人は見て覚えろ』ってありますよね。これがモノ作りの基本だと思います。ただ、感どころは、手取り足取り教えてもらって身につくものではありません。自分で気づき、感じる。これが重要です。とはいえ、実戦でやらないことには技術も身につかない。この点においてウチが誇るべきことなのですが、親方衆が、若い職人に成長する機会を与えるために、本来は若手の職人がやるはずの玉取りに回るんです。親方衆、かっこいい!! 人間できてる! 俺もそんなカッコいいオヤジになりてー!! と思います」

 

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■落ち込む若手には『へこんででも上手くなんねーから』と檄を飛ばします

 

玉取りでできた下玉を金型に入れて、吹き込んで形にする。これが最もおなじみの作業である「吹き」。ここで薄さが均一になるように吹くのは卓越した技術であり、その姿はとても絵になる。そして吹き上がったガラスは500℃~600℃の徐冷炉で80分をかけてゆっくりと冷やされた後、中間検査へと回る。ここで、どこまでを合格、どこまでを不合格にするか。そこが重要なポイントとなる。

 

「選品はすべて目視。だから、誰でもできるわけではありません。大事なのは、重要なポイントをしっかりと見ること。検査は、なかなかシンドイ作業です。気になる所を見つけ始めたら、細かい所がちょこちょこ気になるんですよねアラを探し出すような見方をしたら、不良率はグンとアップする。理想で飯は食えません。だからといって、何でもいいや、という気持ちで出していたら、「松徳硝子、大したことねーな!」となって、ファンの方々は離れてしまう…。どこまで入れて、どこまで壊すか。このさじかげんが本当に難しい。

 

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ウチで55年やってる親方がいて、『これだけ長年やっても、すべてに満足のいくものを作ったことは一度もない』と言っています。常に、どこか気になる箇所があるようです。そんなレベルのことだから、俺達みたいなションベンくさいペーぺーが、できるだ、できないだで一喜一憂するなんて、はっきり言っておこがましいんじゃないか? って思うんです。だから、落ち込んでいる若い職人には『凹んでても上手くなんねーし、明日いきなり上手くもならない。やってる間に上手くなるから、とにかくやれ!』と言います」

 

検査を通過したグラスは、棹に付いていた部分をカット。口の部分を焼き切る「火切り」を行い、切り口を機械と職人の手で平坦に研磨。さらに口を焼いて滑らかにする「口焼き」を経て最終検査に回され、合格したものが商品として出荷される。

 

「ウチの職人はみんな、本当にいい仕事をしてくれます。でも、グラス作りは、1年や2年でできるような簡単な仕事じゃないのも確か。組織においての理想は、個々が完璧なプロフェッショナルであることです。しかし、そこへたどり着くのは決して簡単なことではありません。

工場長(現、技術顧問:加藤照夫氏)がよく言うんですよ。『楽しめ』って。でもその反面、『誰もやりたくない仕事をやれ。それも人の倍やれ!』とも言うんです。そもそも、ガラス作り自体がそういう仕事なんですけどね(笑)。暑いし、なかなか儲からんし。(笑)。

 

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技術も高くいい仕事をするチームには腕のいい職人がいるのはもちろんですが、彼らは、誰よりも早く来て、始業からフルスロットルで製造作業ができるように仕事の段取りをつけたり、作業場の周りを掃除したりしている。つまり、いかに全力でモノ作りと向き合うか、という姿勢がとても大切なんです。そんな彼らを応援して、評価に結びつけること。それもまた、僕の大切な仕事です

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プロフィール
齊藤 能史

齊藤 能史 さいとう よしふみ

松徳硝子(株) 取締役/クリエイティブディレクター

1976年生まれ。北海道函館市出身。広告制作会社にて、グラフィックデザイナー、アートディレクター職を経て、モノ作り業界へ転身。ステンレス一体構造包丁「GLOBAL」を製造する吉田金属工業にて、ブランディング、宣伝広報、商品企画、営業統括職に従事した後に現職。ブランディング、プロダクトデザイン、商品企画から経営企画まで、あれこれやらざるを得ない典型的な器用貧乏。酒を飲んでは、グラスをデザインし、グラスをデザインしては、酒を飲む日々。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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